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共有不動産に関する紛争

森田雅也森田雅也

2022/11/01

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今回は、1つの不動産を誰かと共同で所有している状態、すなわち、不動産が共有状態にある場合に生じ得る法的紛争についてご説明いたします。

【共有不動産についての共有者間の意思決定の方法】

共有状態にある不動産をどのように使用するかについて、共有者間でどのように決定すれば良いのでしょうか。
まずは、この点についてご説明いたします。

不動産が共有状態にあるということは、その不動産を使用したり、第三者に賃貸して賃料収入を得たり、第三者に売却して不動産を処分したりすることについて、決定権限を持っている権利者が複数存在しているということを意味します。
したがって、民法には、共有物の使用方法について、共有者が意思決定を行う場合についての規定が設けられています。決定する内容によって、その内容を決定するための要件が異なります。
以下では、民法に定められている共有者間の意思決定の方法について見ていきましょう。

〈①共有物の変更行為〉

 まず、共有不動産に変更を加える場合には、共有者全員の同意が必要になります(民法251条)。
 共有不動産に変更を加える場合とは、例えば、共有不動産を他人に譲渡する場合や、共有している建物を解体する場合、田畑として使用していた土地を宅地に変える場合などがこれに当たります。
 これらの行為を行う場合には、共有者全員の同意を得なければなりません。

〈②共有物の管理行為〉

 次に、共有不動産の管理に関する事項については、上記のような、共有不動産の変更行為に当たらない限り、各共有者の持分の価格に従って、その過半数で決定します(民法252条本文)。
 不動産の管理に関する事項とは、例えば、土地の共有者ABCのうち、Aが単独でこの土地の上に建物を建てて居住し、AがBCに対して、BCの持分に応じた土地の使用料を支払うという場合や、第三者と締結している共有不動産についての賃貸借契約を解除する場合などがこれに当たります。
 このような行為を行う場合には、わざわざ共有者全員の同意を得る必要はなく、共有者のうち、持分の過半数を有する者の同意があれば足りるということになります。

〈③共有物の保存行為〉

 最後に、共有不動産の保存行為に当たる事項については、各共有者が単独で行うことができます(民法252条ただし書)。
 保存行為とは、共有不動産の現状を維持、保存する行為のことであり、例えば、共有する建物の修繕を行う場合や、共有不動産を勝手に占有している第三者に対して、不動産を明け渡すよう請求する場合などがこれに当たります。
 このような行為を行う場合には、他の共有者の同意を得る必要はなく、各共有者が単独で行うことができます。

【共有不動産に関する典型的な紛争の例】

 以上のことを踏まえて、共有不動産に関する典型的な紛争の例をいくつか見ていきたいと思います。

〈共有者の1人が建物に居住するケースの明渡請求・金銭請求〉

 1つの共有不動産について、共有者全員が一緒に居住しているケースは少ないです。そのようなケースよりも、共有者の内の1人が、単独で共有不動産に居住しているケースが多いです。
具体例として、ABCが建物αを共有しているが、Aのみが単独で建物αに居住しており、AはBCに対して、建物αの使用の対価を支払っていないというケースを考えてみましょう。
このようなケースの場合、通常は、共有者同士(ABC間)には親族関係などの特別な関係があることがほとんどでしょう。したがって、上記のケースにおいても、ABCは兄弟であるという設定にします。
ABCの関係が良好である間は、Aが単独で建物αに住んでいても、BCは何も文句は言わないかもしれません。
しかし、ABCの関係が悪化すると、BCは、Aに対して、Aが単独で共有不動産に住んでいることが不公平だという主張をするようになることがあります。
法律的にも、このような不公平を是正するための方法があります。具体的には、BCから、Aに対し、建物αの明渡請求や賃料相当損害金の請求をするという方法が考えられます。
 過去の判例に照らすと、これらの法的措置のうち、不動産(建物α)の明渡請求については否定され、賃料相当損害金の請求のみが認められるという傾向にあります。
法律上、共有者は共有不動産について、持分権を有している以上、共有者間の不動産の明渡請求は原則的には認められないと考えられているのです。
 しかし、これらの請求が認められるか否かの判断には、背景にある特殊事情が大きく影響するため、その事情によっては、例外的に、不動産の明渡請求まで認められる場合もあります。
 専門的な判断が必要となりますので、上記のケースのように、不動産を単独で占有している共有者に対して、不動産の明渡請求を行うことを検討しているという方は、1度弁護士にご相談することをお勧めいたします。

〈共有不動産の賃貸借契約〉

 共有不動産が、賃貸マンションやテナントビルなど、収益不動産であるというケースも良くあります。このような場合、共有不動産の管理費用、賃料や敷金・礼金などの賃貸条件の設定など、運営に関する事項について、共有者間で決定しなければならない事項が多くあります。
第三者に不動産を賃貸する行為は、短期賃貸借(民法602条)の場合を除き、先程ご説明した〈①共有物の変更行為〉に該当するため、その意思決定には、共有者全員の同意が必要となります。
したがって、共有者同士の関係が悪化すると、なかなか全員の同意が得られず、収益不動産の運営・管理が非常に難しくなります。収支の分担・配分をめぐって、共有者間で激しい争いとなることも多いです。
また、賃貸借契約書上、賃貸人の欄に誰の名前を記載するかという問題もあります。賃貸借契約書における記載が少し違うというだけで、法律的には大きく意味が異なる場合もあることから、契約書の少しの記載の違いをめぐって、共有者間で激しい争いとなることもあります。

〈共有不動産の経費負担に関する求償や共有持分買取権〉

 不動産は、当該不動産を所有しているだけで、固定資産税などのコストがかかります。  不動産が共有となっている場合には、このコストについても、共有者間で分担して負担することになります。
実際には、共有者の内の1人が、固定資産税等をひとまず立て替えて全額支払っておいて、後から他の共有者に対して、立て替え払いしていた分の支払いを求めるという処理をすることが多いでしょう。
この点に関して、経費の立て替え払いをしたのに、他の共有者が自分の負担すべき経費を支払ってくれないという紛争が生じることもよくあります。
このような場合には、法的には、経費を支払わない共有者の共有持分を、他の共有者が強制的に買い取るという措置を取ることができます。このように、他の共有者の持分を買い取ることができる権利のことを、共有持分買取権といいます。
 もっとも、経費の支払いを行わない共有者の側にも、支払いを行わない理由について、言い分があることが多いです。例えば、共有者が、他の債権との相殺を主張するという場合が挙げられます。

 具体的なケースとして、以下のようなケースを考えてみましょう。

D・Eが共有する不動産について、Dが固定資産税8万円を立て替え払いしていました。立て替え払いした後、Dは、Eに対して、Eの負担額である4万円を支払うよう請求しましたが、Eはその支払いをしてくれません。
Eは、以前、Dに対して、4万円を貸していたのに、返済期限を過ぎてもDがその4万円を返してくれないため、このDへの貸金4万円の返済を求めない代わりに、上記固定資産税の負担額4万円の支払いもしないと主張しています。すなわち、DのEに対する4万円の固定資産税の支払請求権と、EのDに対する4万円の貸金返還請求権を相殺すると主張しているわけです。

このようなケースにおいては、Dが、Eから4万円を借りており、これを返すべきなのにまだ返していなかったという事実を認めるのであれば、あまり大きな紛争にはならないかもしれません。もっとも、Dが、Eに対して、4万円など借りていないと反論したり、4万円は借りたが、既に全額返済していると反論したりしている場合には、D・E間の紛争が複雑化していく可能性があります。

【まとめ】

 今回は、複数人が1つの不動産を共有している場合に生じ得る紛争について解説してきました。
 不動産を共有状態にしておくと、今回ご紹介したように、様々な紛争が生じるリスクがあります。
 現在不動産を誰かと共有しているという方は、共有者間で争いが生じないうちに、誰か1人の単独名義に変更しておくなどの対応策を検討されても良いかもしれません。
 共有不動産について、共有者間で紛争が生じてしまった場合や、共有者間で紛争が生じることを未然に防止するために、何か対応策を講じておきたいという場合、早い段階で弁護士に相談することをお勧めいたします。

 また、現在不動産を単独で所有されているという方にとっても、今回のお話は無関係ではありません。
 現在不動産を単独で所有されているという方の場合でも、相続人の方が複数いらっしゃる場合には、不動産の所有者が亡くなって、相続が開始した後、その不動産は、遺産分割協議が成立するまでの間、共同相続人の共有状態となるのが原則です。
 ご自身が亡くなった後、お子様など、複数の相続人の間で、上記のような共有不動産をめぐる紛争が生じることを防ぐために、不動産については誰かの単独所有とする旨の遺言書を作成しておくことも1つの対応策として考えられます。
 相続の生前対策については、今回ご説明した共有不動産の紛争に関する事項の他にも、様々な検討事項がありますので、生前対策をお考えの方は、是非弁護士にご相談ください。

以上

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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