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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#9 令和最大のマンションイベント「HARUMI FLAG」は買いか?(3/4ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2019/04/19

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なぜ街間格差ができるのか


東京五輪選手村跡地に開発される「HARUMI FLAG」

なぜ街間格差が出始めるのか理由を述べよう。このマンションが引き渡しされる2023年から25年にかけて東京の不動産マーケットは大きな変革が起こりそうなのである。ひとつが、「多死・大量相続」時代の到来だ。1947年から49年に生まれた世代を団塊世代という。この世代は人口が非常に多く、これまで日本の産業の担い手として貢献してきた。この世代のすべてが2025年までに75歳以上の後期高齢者になる。実は東京都は75歳以上の後期高齢者の人口のほうが、65歳から74歳までの前期高齢者の人口を上回っている。つまり団塊世代以上の世代が東京には大勢住んでいるのだ。団塊世代が後期高齢者の仲間入りをする頃、この前の世代を中心に東京は大量の相続が発生することが容易に予想される。この世代はたとえば都内の大田区や世田谷区、杉並区などに住宅を所有している。

そして相続した不動産のかなり多くが子供や孫が受け継いで住むことなく、賃貸に供されたり売却されることになるだろう。少子高齢化の影響だ。さらに2025年にかけてこれに団塊世代の相続が追随することになる。東京はまさに相続天国になるのだ。晴海から見晴るかす東京都心の眺めは絶景だろうが、実は都心周辺の交通利便性の良い、ブランド立地などと呼ばれる高台の住宅地で今後、大量の相続物件がマーケットに供給されることが容易に予測されるのだ。そのときこの都心の離れ小島の晴海がこうした相続物件との競合に打ち勝っていけるのだろうか。

さらに2022年には生産緑地制度の期限切れ問題が勃発する。都市農地を守るため固定資産税などの優遇を行ってきた制度で現在都内には3300haもの都市農地が存在する。この特典を得るには30年間農業を続けなければならなかったが、この制度改正が行われた1992年から30年の期限を迎える22年は大量の都市農地が宅地化を選択することが懸念されているのだ。国は期限延長などの緩和策をとっているが、農業従事者も高齢化しており一部は宅地化される可能性が高いのではないかと取り沙汰されている。

晴海がおいてけぼりになる可能性も

こうした土地の供給圧力が強まる時代に引き渡しを受ける晴海のマンションがその時果たして「本当にお買い得」なのかどうかは正直怪しいと考えざるを得ない。エリアにおける現在の坪300万円代半ばから後半という相場観もすでに価格的にはピークアウトしているという説が強いのだ。現時点の相場での単純な比較は危険かもしれない。

引き渡しが4年以上先の物件をローンで買うことには大きなリスクを伴う。住宅ローンを組む際は物件引き渡し時の金利が適用されるのが一般的だ。さてこの低金利時代が4年後も続いているかの確信はない。たとえば35年返済5000万円のローンを組んだ場合、金利が1.5%であれば毎月の返済額は15万3092円だが、3%に上がっていれば19万2425円に跳ね上がる。35年間の総返済額では1600万円以上の差になってしまう。買った時の価格差なんて吹き飛んでしまうのが金利の恐さだ。

金利が上がるということは不動産価格も上がるから大丈夫と考えたいところだが、上記の理由を考えるとあまり楽観はできない。東京の不動産マーケットで晴海がおいてけぼりになる可能性を否定できないのだ。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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