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BOOK Review――この1冊 『小説伊勢物語 業平』(1/2ページ)

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『小説伊勢物語 業平』/髙樹のぶ子 著・日本経済新聞出版 刊・定価2200円+税

リズムを意識した文体で、物語に引き込まれる古典

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴ってやってきた「新しい日常」が、多くの人に家で過ごす膨大な時間を与えている。ステイホームのお伴として人気を集めているのが読書で、昨年来、書店の売上は好調だという。

「せっかく時間があるのだから、読み応えのある長編小説を読みたい」「この機会に、古典の名作に触れてみたい」。そうしたニーズも根強く、名作小説のリバイバルヒットも目立つ。国文学のジャンルでスマッシュヒットなのが本書だ。昨年5月の発売以来順調な売れ行きを記録。私立中学の国語のテキストに採用されるなど、幅広い世代から支持を集めている。

『伊勢物語』といえば、平安時代に成立した歌物語の元祖。

平安きっての美男子にして歌の名手として名高い在原業平が詠んだとされる和歌を中心とする125の章段からなり、平安中期の『源氏物語』や江戸時代の『好色一代男』をはじめ、数々の日本文学に影響を与えてきた不朽の名作だ。

現代語訳は数多く出版されているものの、平安貴族の習わしや和歌についての基本知識がなければ読み解くのは難しく、それゆえ全編を読破したという人は案外に少ない。その『伊勢物語』を、在原業平の一代記として小説に編みなおしたのが本書なのだ。

単に易しい現代語で書かれた読み物としてではなく、平安時代の風や、その時代に生きた登場人物の息遣いを読み手に伝える物語として新たな命を吹き込まれたことにより、現代を生きる読者も、違和感なく平安の世界へと没入できる。

読みやすさと豊かな読書体験を両立させる要となっているのが文体だ。例えば冒頭の書きだしは次の通り。

「春夏盛りの、大地より萌え出ずる草々が、天より降りかかる光りをあびて、若緑色に輝く春日野の丘は、悠揚としていかにも広くなだらか」

また、後に続く章の書き出しは「朱雀大路より西は、大内裏から南に見下ろして右半分、ゆえに右京と呼ばれております」となっている。本書では、ですます調や体言止め、5音と7音のリズムを意識した文体によって物語が展開されていく。この文体は、「平安の雅を可能なかぎり取り込み、歌を小説の中に据えていくため」に、著者が本作のために編み出したものだという。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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