『北条氏の時代』 北条氏が権力を握り、なぜ維持できたか――「鎌倉時代」を俯瞰する1冊

2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送がはじまり、評判は上々のようだ。平安末期から鎌倉幕府が開かれ、鎌倉幕府二代目執権・北条義時を主人公に、北条氏が権力を握るまでを描いたもので、そこに脚本家の三谷幸喜氏の独特の世界観がどう入るかが、注目されている。

【参考記事】NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』をより楽しむ　北条氏――源頼朝とともに鎌倉幕府をつくり、支えた一族の系譜

もとは地方の一豪族であったにも関わらず、鎌倉幕府の権力を実質的に掌握した一族。それが北条氏だ。北条氏は将軍を陰から支配し、幕府と朝廷とのパワーバランスもにらみながら、わが国で初めて本格的な武家政治を実現してみせた。本書の『北条氏の時代』は、その歴代当主8人の手腕に迫る。

日本中世史の研究者である著者の本郷和人氏は、本書を「これまでに研究してきた鎌倉時代論の集大成」としており、読めばドラマの面白さが倍増することだろう。

伊豆の国（静岡県伊豆の国市）の一豪族に過ぎなかった北条氏が権力を手に入れたきっかけは、源頼朝との縁によるものだった。平治の乱（1160年）で源氏が平氏に討たれたあと、若年であった頼朝は処刑をまぬがれ、流罪で赦された。流された先が伊豆の国だったのだ。その後、頼朝は北条時政の娘・北条政子と結婚する。

では北条氏の繁栄の礎は源家との姻戚関係のみだったかというと、そんなことはない。

政子の父であり、鎌倉幕府初代執権となる北条時政は、当時の東国（東日本）の武士としては珍しく教養に優れた人物だった。警備や税の取りたてを担う守護・地頭の設置を朝廷に認めさせたのも、時政の交渉や調整能力の賜物だと本書は指摘する。

ただし、これら「表」向きの力のみならず、「裏」の力、すなわち謀略にもたけているのが北条時政のすごみであり、また恐ろしい一面でもあった。

幕府内で、あるいは朝廷で、秀で過ぎている者、北条氏の権力を危険にさらしそうな者がいれば、「謀反を企てた」という理由で処刑。その後、「そんな謀反はなかった」「無実の者を処刑した者は罪人だ」と、実行者を処刑する。時政が死に、北条家当主が代々移り変わっても、こうした北条氏の恐ろしい謀略は繰り返される。優れた政治手腕としたたかさが、北条氏の権力を強力に下支えしていた。

【参考記事】大河ドラマの主役・北条氏のふるさと「伊豆」は面白すぎる場所　日本史の重要な変わり目になぜか登場

鎌倉幕府150年の歴史のうち、源家で将軍を務めたのは、頼朝、頼家、実朝の三人に限られる。

しかし北条氏は、幕府設立から滅亡まで、権力の中枢にい続けた。特に、後鳥羽上皇が中心となっておこした承久の乱（1221年）を鎮めてからは、朝廷にもその影響力をとどろかせるようになる。幕府の政治のみならず、皇統にまで口を出せる一族にまで北条氏は上り詰めた。望めば、北条氏から将軍を出すこともできたはずだ。しかし一度もそれをしなかったのは、前に出過ぎることで足もとが揺らぐリスクを勘案したからだろうと著者は分析する。
　
それほど慎重な北条氏も、やがては肥大し過ぎた権力ゆえに滅びていく。

鎌倉時代末期、多くの領地を所有していた北条氏は、持たざる大多数の者たちのターゲットとなってしまったからだ。その頃、有能な当主に恵まれなかったこともあり、北条一族は鎌倉幕府と共に滅亡してしまう。かつての繁栄を思えば、ろくに反逆もできず滅びる姿があまりにもあっけなく、悲しい。

本書は、北条氏の歴代当主8人の手腕を、政治学者の洞察を交えて紹介する一冊だ。ひとかどの人物は権力闘争で暗殺され、器の小さい人物は早々に表舞台から蹴りだされる。この時代は。現代を生きる私たちにとってはシビアすぎる時代だが、そんな時代を生き抜いた北条氏の活躍をたどることで、たくましく生きるヒントを得られそうだ。

BOOK Review――この1冊
『ばにらさま』　さまざまな女性の生きる姿を描き続けてきた山本文緒の遺作
最新版『まずはアパート一棟、買いなさい！』資金300万円から家賃年収1000万円を生み出す極意
『変な家』 ネットで話題沸騰の【不動産ミステリー】にその後を加えた物語