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売れない空き家を地域コミュニティの場として活用――横浜「子安の丘みんなの家」の実践的な取り組み(1/2ページ)

田中 裕治田中 裕治

2022/02/07

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「子安の丘みんなの家」プロジェクトで集まったメンバーたち

取り壊しもリフォームも大変な物件

今、空き家や空き地、耕作放棄地などの負動産の問題を解消するための解決策は、ありません。それでも地元の人が集まる場所として、子ども食堂や空き家を地域のコミュニティの拠点として活用している例は全国にあります。空き家もそのままにしておけば負動産ですが、活用のしかた次第で、いくらでも地域の役に立つものとなります。

知り合いの地元・横浜の不動産会社が所有者から「売却して欲しい」と相談され、その不動産会社から私に「買い取ってほしい」と頼まれたのが今回の物件です。

JR京浜東北線、新子安駅から徒歩で13分ほど。高台にある築50年あまりの2階建ての物件でした。土地は地型も悪く47㎡と狭く、道路に出るには階段を使わなくてはならい、当然ながら車も入りません。

一見しただけで、建物を壊すにしてもリフォームするにしても多額の費用がかかることが容易に予想できました。空き家になってからは2~3年とのことでしたが、家の中は全体的に痛みが激しくて、そのままではとても住むことはできそうにありませんでした。



子安台駅徒歩:13分
敷地面積:47.65㎡(借地)
間取り:2DK[1階DK/トイレ/浴室 2階和室(続き間)]

加えて、土地は借地権で所有者は横浜市。売却しようにも融資がつきづらい物件です。こうした物件ということもあって、当社に相談がきたようです。

とはいえ、当社も普通に建て替えをして売却するには採算が合わないため、本来であれば買い取りは難しいのですが、以前から考えていた空き家の活用の経験を生かすために自社で、この物件を買い取ることとしました。

全国的に空き家の活用をするためには、まず人口の多い横浜市で成功させなければ、ほかのエリアでは成功はおぼつかないとの思いがあったからです。

当初は、無償で地域のために使う方に物件を貸し、活用してもらおうと考えていたのですが、気がつくと私自身と営業社員が旗振り役になっていました。

世代間、地域間のギャップを埋めるために

とはいっても、私一人ではどうにもなりません。そこで建築家の小山将史さんに相談し、まちづくりに対する優秀なアイデアに横浜市が助成金を交付する「ヨコハマ市民まち普請事業」に応募することに。そして、チラシのポスティング500部からスタートすると、地元の料理研究家・阿部博美さんなどがメンバーに加わり、徐々にメンバーが増えていきました。

集まった皆さんと話し合いをしていくなかで、子安台エリアは昔から住んでいる年配の方が多い一方、新子安は新築マンションが次々と建設されています。ここでは共働き世帯が多く、こども食堂などの需要も高いと考えました。メンバーミーティングのなかで地域間での世代間ギャップが生まれているという話から、こうした問題をこの空き家活用でいくらかでも解決できればと、次のようなコンセプトを打ち出しました。

・木造2階建ての物件のリノベーションを行う
・1階と2階をレンタルスペースとして運用
1階はカフェやコミュニティスペース、2階は学習塾など多目的で使用できるスペースとして利用が可能。※レンタルスペースとして収益を上げ、その収益で家族食堂(世代を超えて集まれるこども食堂的な食堂)の運営費やイベントに充てる予定。
・作る側にも、食べる側にもなれる家族食堂では地域住民のレシピを使ったメニューも予定
・屋外には建物が使われていないときも自由に利用できるテラスを設けて地域に開放する

この整備には通常1000万円前後の費用がかかりますが、DIYボランティアや地域企業からの協賛で工事費用を550万円まで圧縮し、補助金(500万円)と皆様からの寄付金でリノベーションを完成させます。


完成予想図

そして、「子安の丘みんなの家」と題した計画書をまとめ、横浜市の「ヨコハマ市民まち普請事業」に応募したところ、一次審査を通過。2次コンテストを通過すれば、物件の整備に最大で500万円の助成金が交付されます。

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この記事を書いた人

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役

1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。

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