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不動産投資は「立地利用価値」の分配か――21年のビッグワード 新しい資本主義の「分配」を考察する(2/2ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2021/12/08

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劇的に変化していく「仕事の分配」

資本の側から労働者としての個人の側へ、仕事は長い間「垂直分配」されてきた。ところが、IT化が進んでいく世界が生み出す新しい労働社会においては、そこが突き崩されてきている。このことはすさまじくエキサイティングだ。

すなわち、気づいている人も多いと思うが、現在、仕事は能力のある個人から企業へと分配されるケースが増えている。これは、主にはマネジメントやスポンサードといったかたちで、過去より一部には見られていたものだ。

しかしながら、IT化していく社会の中では、これが一部のことにはとどまらず、あらゆる分野で個人の能力が“タレント”化しやすくなっている。例えば、カリスマユーチューバーなどはそのうちの目立つ代表だ。ファンや支持者という市場は彼らが個人で握っており、企業はそこにチャンスを求めてぶらさがる。仕事の分配にあずかるかたちとなるわけだ。

また、似たことは、いかにも組織立った企業の中でも実はかなりの割合で起きているはずだ。多くの従業員は昔ながらに仕事を会社から分配されているが、その企業が請け負う仕事を実質として創造し、分配しているタレントが、いまはさまざまな企業に生まれている。

そのため、働く者の間でのもっとも大きな経済的ないし心理的な格差は、企業の大・中・小や、雇用の正規・非正規の別以上に、そうした分配者と被分配者との間に、今後は生じやすくなってくるはずだ。

ともあれ、資本よりも上位に立つ個人が次々生まれるという以上の事実にこそ、社会は多角的な面から注視をしていかなければならなくなるだろう。

学校にはやっぱり行かなくていい?

人々が教育される機会の公平分配が、産業革命以降の社会的ニーズ=規格化された人材の大量生産に合致するかたちで広がったという意見をたまに聞くが、それには大いに賛成したい。

そのうえで、現在、興味深いのは「教育を行う機会」の方の分配が広がっていることだ。これも世の中のIT化が生み出している。

すなわち、学校といえば、仕組みを表す単語であるとともに、それが校舎という建物を指しても言われるように、教育には屋根と壁に囲まれた施設が従来必要だった。ところが、インターネット社会の始まりとともにその点が崩れ去ってしまっている。

つまり、免許や許認可のことはとりあえず措くとして、実質上、子どもへの教育、大人への教育併せ、教育にはいまは誰もが参入できる。そのなかには、いわゆる官製の「教師」を超えるソリューションを提供できる人材が多数にわたって存在することも、当然期待しうることといえるだろう。

なので、それを逆から見据えたうえでの「学校なんかに行かなくてもいい」との主張は、何やら生意気だが、理屈としてはあたりまえに的を射るものだ。

が、反面、子どもの教育における家庭の責任はこれによって非常に重くなった。理由は、近代以前さながらの家庭内教育含め、教育の選択肢が多様となる以上、子どもにどんな学びの機会を与えるか、親のナビゲーションによる結果の差も、必然的に多様化せざるをえないからにほかならない。

分配を考えることはその時々の社会の幸福のカギを考えること

分配について、思考の範囲を広げながら、浮かんでくる事例と課題をいくつか記してみた。だが、実際のところ話は尽きない。例えば、リスクと安心、コストと安全の同時分配制度である保険や共済、さらには証券化といったシステムと考え方は、今後いまに増して大きな広がりと飛躍が期待されるものだ。

分配はあらゆる動物のなかでの人間の専売特許ではないが、あらゆる動物のなかから人間を際立たせているきわめて重要な要素のひとつだ。おそらくはこれがあるため我々は文明を持てたといってもいい。

なので、分配を考えることは、つまりは人間社会の幸福のカギについて考えることとなる。

その意味で、冒頭にもふれた今回の衆議院選挙は大変収穫の多い選挙だったといえるだろう。それはとりもなおさず「分配」の語を世の中に大きく広めた功績による。 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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