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まちと住まいの空間 第36回 ドキュメンタリー映画に見る東京の移り変わり⑦ ――関東大震災から6年、復興する東京(『復興帝都シンフォニー』より)(2/5ページ)

岡本哲志岡本哲志

2021/05/18

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都市空間を表現する「街、通り、建築」

5つのカテゴリーの一つ目は、都市空間を表現する「街、通り、建築」である。「街」としては丸の内、「通り」は銀座通り、「建築」は国会議事堂を特に取り上げる。

この映画で「街」としての露出度は、丸の内が断然トップ。その映像も東京駅ホームの通勤ラッシュにはじまり、東京駅南口からサラリーマンが行列をなし、市電やバスが往き来する合間を縫い丸ビルに吸い込まれるシーンへ展開する。その丸ビル右奥には鉄骨の骨組みが見え、これは昭和5(1930)年竣工する東京海上ビル新館が建設途中の模様だ。丸の内では、多くの建物が震災前と変わらずに機能しており、被災した官庁、銀行、商店などが仮住まいの場を求めて押し掛けた。

人を主体とすると、丸の内の映像は復興のシンボルというより、関東大震災前の街並みが充分絵になり、生活を取り戻した人々の生き生きとした姿を描く背景として使われた。興味深いのは、消防自動車を丸の内ビル街で疾走させるシーンが長いことだ。これはすでに不燃化している丸の内を走り、火災の猛威に打ち勝つ近代的な消防自動車をアピールしたかったのか。

「通り」は、知名度から銀座通りが主役にすえられたようだ。銀座は東京のどこの街よりも早く復興に取りかかる。実業家であり、小説家、評論家、劇作家でもある水上滝太郎(みなかみ たきたろう)の『銀座復興』(1931年、「都新聞」1928・29年連載)は、そうした銀座の人たちの力強さが描かれている。

大正10(1921)年に街路整備がなされてからわずかな2年で関東大震災が起き、銀座通りは再び街路整備が行われた。その舗装を見て驚かされる。

当時は銀座通り車道の一部が西欧の古都や神楽坂で見られるピンコロ石で敷き詰められたからだ。ひとつひとつ石を並べる石工作業の光景も興味深い。


写真/ピンコロ石で舗装する光景、『日本地理大系 大東京篇』(改造社、1930年)

これほどの手間と時間をかけて、当時の銀座通り車道が舗装された。映像は建物の復興が進む銀座通りの街並みへと展開していく。

銀座尾張町(現・銀座五丁目)の伊東巳代治貸店舗(1924年竣工)、銀座三丁目の松屋(1925年竣工)など、新築した建物をメインに銀座三丁目から五丁目の街並みが撮影されている。しかし、昭和7(1932)年に竣工する今では銀座のシンボルな存在の時計塔を冠した現在の和光(服部時計店)はまだ姿をあらわしていない。しかも、工事現場の服部時計店を画像はスルーしており、銀座通りの復興はまだ半ばだと感じさせる。


 
関東大震災後の瓦礫となった東京には数多くの近代建築が建てられ、東京の風景を近代化させた。

そのなかで、復興半ばの昭和4(1929)年という時代を力強く表現する「建築」として、クローズアップしているのが国会議事堂である。この建物は再び関東大震災級の巨大地震が東京に起きてもびくともしない健剛なつくりであり、大正9(1920)年の着工から、関東大震災を挟んだとはいえ実に16年の歳月をかけて完成(1936年に竣工)する。

映画では建設途中の姿である。


写真/完成前の国会議事堂、『日本地理大系 大東京篇』(改造社、1930年)

加えて、国会議事堂前やその周辺では大規模な再開発が行なわれており、工事現場の映像も長く撮り続けた。国を象徴する国会議事堂の建設だけでなく、東京という都市が新たによみがえろうとする過程が映像となっている点が興味深い。

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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