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『MOTHER マザー』/実話を元にした不愉快な物語であっても、目が離せない長澤まさみの演技(3/3ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2020/07/01

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監督は『日日是好日』(18)の大森立嗣で、脚本は『宮本から君へ』(19)の港岳彦と大森が共同で書き上げた。

シリアスなのはもちろんだが、作品の重さは尋常ではなく、スクリーンに目を凝らしていると、脇腹に強烈なボディブローをお見舞いされているかのような錯覚に陥る。

秋子は異色の母親どころか、毒親と呼ぶべき強烈なキャラクターであり一切の感情移入を許さない。金にルーズで、なまけ者。まるで男を見る目がなく、だらしない。金に困ると、子どもをダシにして親に金をたかる。金を手に入れるための最後の手段と考えているからであろうか、秋子は男と手を切っても、決して子どもを捨てない。そんな彼女の理不尽さがラストの悲劇へと繋がってゆく。

実に不愉快な物語だ。観ていると腹が立ってくる。それでも最後までスクリーンから目が離せないのは、このどうしようもない母親をスターである長澤まさみが演じているからだ。長澤の演技は素晴らしく、彼女が主役を務めることで本作はウルトラヘビー級のスター映画となり、娯楽映画として見事に成立しているのである。大森監督の手腕には敬服するしかない。

脇を支える阿部サダヲ、木野花、夏帆らの好演も忘れがたいが、何よりも、17歳の周平を演じた奥平大兼の真っ直ぐな演技を称えたい。周平のラストの台詞が、観客の胸を打つ。

今年度を代表する秀作である。

『MOTHER マザー』
監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣/港岳彦
出演:長澤まさみ/阿部サダヲ/奥平大兼/夏帆/皆川猿時/仲野太賀/木野花 ほか
配給:スターサンズ/KADOKAWA
2020年7月3日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
公式HP/https://mother2020.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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