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相続法改正シリーズ #3 実家の不動産相続に大きな影響を与える可能性――「おしどり贈与」(2/2ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/09/22

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「おしどり贈与」改正点及び注意点

そこで、今回の改正(19年7月1日以降の贈与分から)による民法903条4項が新規に創設され、「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定(特別受益を持ち戻して遺産総額とする規定)を適用しない旨の意思を表示したものと推定する」とされたのだ。

簡潔に言えば「配偶者に対する持戻し免除の意思表示推定規定」となる。

この条文を見れば分かるのだが、民法でいう「おしどり贈与」には金額の上限がない。すなわち、税法上は2000万円までが非課税なのだが、それを超えて行う「民法上の」おしどり贈与は、贈与税は発生してもよければできるということになる。

高齢者の自宅が5000万円で、預貯金が1000万円の場合にも、20年以上連れ添った夫が妻に自宅を「おしどり贈与」してあげることで、自分の死後の生活の拠点を確保し、遺産である預金だけを遺産分割対象にすることができる。

ほかにも民法上のおしどり贈与は、税法上のおしどり贈与と異なり、「すでに住んでいる土地建物のみ」が対象であり、「これから取得する住宅取得資金」は対象とはならないことに注意したい。

「おしどり贈与」とはいかにも聞こえがよいが、実は、配偶者が自宅を相続する場合にはかからない「不動産取得税(税率は軽減措置等がありやや複雑。土地建物とも原則4%のところ、21年3月31日まで固定資産税評価額の土地3%×1/2、建物3%に軽減中〈ときどき延長されたりするので注意が必要〉」や、相続なら0.4%しかかからないのに贈与なら2%もかかる「(登記するときにかかる)登録免許税」、登記するときに依頼せざるを得ない司法書士の手数料などを合わせると、税法上のおしどり贈与を使って、2000万円の自宅を贈与するときに「税金や司法書士費用で100万円くらいがかかる」といわれていることも覚えておきたい。

また、配偶者なら相続時に1億6000万円または法定相続分までは非課税となる「配偶者の税額軽減」を使う方が相続税が安くなる場合が多いといわれる。評価額の大きな不動産を贈与するときは2000万円を超える部分の贈与税も高額になる。したがって、おしどり贈与を使うのに適したケースとしては、「贈与する自宅の評価額が2000万円以下か、超える場合でも自宅の一部として2000万円部分のみ生前贈与することで、それ以外の遺産の相続において、自宅贈与にかかった不動産取得税・登録免許税等を超える節税が可能となる場合」や、「相続争いの回避のためにどうしても自宅だけは先に贈与しておきたい場合」と考えたほうがよい。その際、自宅の贈与を受けた配偶者が亡くなったとき、二次相続のときの相続税まで考える必要があることは言うまでもない。

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この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

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