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光陰矢のごとし――現代人の時間を奪ってゆくものとは何か(2/2ページ)

遠山 高史遠山 高史

2021/04/23

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ご自身のスマートフォンを見て欲しい。実にさまざまな通知が、ひっきりなしに画面に表示されているはずである。新作の映画の情報、明日の天気、電車の遅れ、友人からの誘い、そしてもちろん、大切な取引先からのアポイントなど……。

すぐに情報を確認できて便利? 効率的? 本当にそうだろうか?

情報は、そのままにしておけない。対処しなければならないのだ。時間あたりの情報量が多ければ多いほど、人は対処に追いまくられる。

新作のアニメが出た。
すぐに見なければ!

雨が降る?
傘を用意しなければ!

次の打ち合わせが決まった。
プレゼンの準備をしなければ!

昔も今も、1時間は1時間だ。だが、詰め込まれる情報が増えれば、その分対処に追われることになる。昔、1時間を要した仕事が、5分でできるようになった。だが、その空いた時間には、次々に新しい情報が詰め込まれ、5分で済んだ仕事の後に、何か別の仕事がやってくる。1時間で一つできれば良かった事柄が、今では12倍をこなさなければならない。

昨今、ワークライフバランスとか、働き方改革という言葉を目にするが、本当の意味でのゆとりある生活というものは、幻想に過ぎないのではないかとさえ思う。
 
とはいえ、せめて、心豊かな瞬間を生活に組み込む努力はしたほうがいい。人生は短いが、たまに立ち止まって周りを見回す程度の時間は誰にでもある。

スマートフォンを家に忘れたとしても、命をとられるわけではない。普段はバスで行く通勤路を歩いてみるのもいい。無駄に思えることも、実は無駄ではないことはたくさんある。そういう無駄が、精神には良かったりするものだ。

「時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜん別のなにかをケチケチしているということには、だれひとり気が付いていないようでした」

『モモ』のなかの一文である。モモのようにとはいかないまでも、なるべくケチケチせずに、世を渡りたいものである。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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