ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

医療・介護問題だけではない――高齢者の財産管理における「2025年問題」(3/4ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/06/28

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

【家族信託】
近年、高齢者の財産管理として、あるいは遺言に代わる遺産承継の有効な手法として特に注目されているのが「家族信託」だ。最近は新聞や雑誌で特集記事をみかけることが多くなった。

大きな本屋さんに行くと、何冊もの家族信託解説本が本棚に並んでいる。家族信託とは「信託契約によって、自分の所有している財産を家族の誰かの名義に移してその運用や管理を任せつつ、その財産から得られる利益は自分または自分が指定する第三者に得させること」をいう。財産の管理を任せる人を「委託者」、任せられる人を「受託者」、利益を得る人を「受益者」と呼んでいる。超高齢化社会といわれるようになり、相続問題が脚光を浴びるようになってから、「信託銀行」や「信託会社」も活発に営業活動を行っており、信託業法という法律にのっとって営利目的で信託に関する業務を行う場合を「商事信託」という。これ対して、受け手が家族の場合が多いのだが、必ずしも家族でなくても、非営利すなわち手数料をもらわないで信託に関する業務を行う場合を「民事信託」といい、この民事信託のうち受託者が家族の場合を家族信託と呼んでいるのだ。

成年後見制度と家族信託の大きな違いを2つ挙げておきたい。

①財産を委託する高齢者が意思能力を持っている段階から財産管理ができること

成年後見制度では、法定後見であれ任意後見であれ、いずれも「本人の認知能力が低下した段階(=認知症が疑われる状態)になってから本人の代わりに財産を管理することができる。本人に意思能力がある限り、たとえ本人が希望しても代わりに財産管理を行うことはできない。

②相続税対策や資産運用が可能であること

成年後見人あるいは任意後見人は、本人の財産を管理する場合、本人の利益のために財産を守る義務があるとされ、たとえ本人のためによかれと思って「いま株式市場が好況だから預金を使って株式で運用して財産を増やそう」というような積極的な運用は、財産が減る可能性があるためできないとされている。また、多額の現金があるまま相続が発生すると相続税が多くかかる場合があるが、相続税対策として現金をアパートの土地・建物に変えるというようなことも、「損をする可能性がある」ので原則的にはできない。一方、家族信託で財産管理を任された「受託者」の場合は、信託契約の中で資金の積極運用や土地の有効活用なども入れておくことで可能となる。このあたりの柔軟性が昨今特に注目されているゆえんだ。

家族信託のデメリット
資産運用や相続対策という点では「家族信託が優れている」と思われるのだが、家族信託にもデメリットもある。特に気を付けたい点を2つ挙げておきたい。

①身上監護は行えない

家族信託でできることは、信託契約で規定された財産管理・運用などであって、本人である委託者が認知症になる前もなった後も、任された財産の管理・運用はできるのだが、肝心の「認知症高齢者の面倒をみる仕事は含まれていない」ということだ。認知症高齢者にとっては、財産管理も重要だが、医療・介護の手配など「療養看護」もとても重要だ。受託者が家族という立場で行える範囲は限定される。介護の契約や施設への入居契約は、代理人という法的立場をもつ成年後見人や任意後見人でなければできないのだ。

②信頼できる専門家を探すのが困難

家族信託が注目されてからそれほどの年月が経っていないため、失敗例としての訴訟になったケースでの判例などに乏しく、家族信託を組成するにあたって注意しなければいけない点など不明とされることが多い。法的な点だけではなく相続税などの税務問題も同じく不明な点が多いといわれる。ということは、家族信託について専門家として営業されている方は多くいるが、誰に頼むかがとても悩ましい問題だろう。

次ページ ▶︎ | 高齢者の財産管理における最も大切なこと 

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

ページのトップへ

ウチコミ!