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「事故物件ガイドライン」――ガイドラインとは異なる事例の場合(1/2ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/11/29

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イメージ/©️ken・photoAC

人の死の告知に関するガイドライン

2021年5月に「人の死の告知に関するガイドライン(案)」が発表され、その後パブリックコメント募集などの手続きを経て、21年10月に正式に制定された「人の死の告知に関するガイドライン」。ちまたでは、通称「事故物件ガイドライン」と呼ばれている。

本稿では繰り返し出てくるので単に「ガイドライン」として触れていきたい(ガイドライン本文中では「本ガイドライン」と記されている)。ただ、既に正式発表から1カ月が過ぎ、多くの専門家がネット上で解説しているので、ガイドラインそのものの内容の解説などではなく、ガイドラインがあくまでも宅建業者が関わる不動産取引における「事故物件の告知に関する判断の目安」に過ぎないこと、従って、ガイドラインとは異なる判断がありうることなど、ガイドラインの射程するところから外れるような場合について解説したい。

誰が目安にすべきガイドラインか?

いうまでもないことだが、ガイドラインは「宅地建物取引業者」のために制定されたものである。こちらをクリックしてもらえば、表紙部分に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」と書かれている。そして、本文には、ガイドラインの位置付けとして、

①「宅地建物取引業者の義務の判断基準としての位置づけ」であるとして、具体的には不動産取引に際し、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事案について、売主・貸主による告知が適切に行われることが重要であるとしながらも、実際の取り引きにおいては、不動産取引の専門家である宅地建物取引業者が売主となる、又は媒介をするケースが多数であり、買主・借主は、契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項について、宅地建物取引業者を通じて告げられることが多数を占めるのだから、その告知・不告知については「宅地建物取引業者はガイドラインを十分に参考にしたうえで取引に当たるように」と言っている。

②宅地建物取引業者がガイドラインで示した対応を行わなかった場合、「そのことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反となるものではないが、宅地建物取引業者の対応を巡ってトラブルとなった場合には、行政庁における監督にあたって、本ガイドラインが参考にされることとなる」と言っている。ガイドラインは国会で制定された「法律」ではないので当たり前に思われるかもしれないが、実は、宅地建物取引業は国(国土交通省、都道府県)から免許というものを与えられて初めて業務を行える性質から、国の指示や指導に従わない場合は、明確な法律違反でなくとも「行政指導」を受けうる立場にあることがとても重要な部分だ。

③最も厄介なのは、ガイドラインの位置づけのなかでも「民事上の責任の位置づけ」という項目で記載されている事項だ。そこには「個々の不動産取引において、人の死の告知に関し紛争が生じた場合の民事上の責任については、取引当事者からの依頼内容、締結される契約の内容等によって個別に判断されるべきものであり、宅地建物取引業者が本ガイドラインに基づく対応を行った場合であっても、当該宅地建物取引業者が民事上の責任を回避できるものではないことに留意する必要がある」と書かれている点だ。おそらくガイドラインを守っていても取り引きが紛争状態になった場合、宅建業者は「ガイドラインを守っているので問題ない」という対応を取るだろうし、苦情申立てを受けた監督官庁も「納得できない場合は裁判をしてください」というかも知れない。そこで裁判所に紛争が持ち込まれた場合に、ガイドラインを守った取り引きであっても、宅建業者が損害賠償義務を認められる可能性がありますと言っているのだ。

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この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

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