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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本]#5 新元号住宅市場~日本の住まい方はこうなる(2/5ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2018/09/01

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デベロッパーの思惑通りにはならない可能性も

ここで注意しなければならないのが住宅のうち、とりわけ建物代の割合が高いのがマンションということだ。一般的にはマンションの販売価格に占める土地対建物の比率は3対7程度だ。これが都心のタワーマンションになるとその比率は2対8から1対9程度まで建物の比率が高まる。建物が大きい(容積率が高い)分だけ建物の割合が大きくなるというのがその仕組みだ。ということは税率のアップが販売価格にストレートに「効いて」くることになる。

前回の税率アップの際は、新築マンション購入の場合、特例で増税前年である2013年9月末までに売買契約を締結すれば、2014年4月の税率アップ時点で、建物が完成、引渡しがされていなくとも、消費税率は旧税率5%を適用するというルールだった。

このため、2013年はマンションの「駆け込み需要」と呼ばれたように、マンション販売は絶好調。モデルルームに大量の客が押し寄せ、ちょっとした社会現象となった。この現象を裏付けるように、2013年のマンション供給戸数は不動産経済研究所の調べによれば5万6478戸と前年を23.8%も上回ることとなった。

今回も同じ考え方に基づけば、2019年4月までに売買契約を締結したものについては旧税率が適用されることになるため、マンションデベロッパー業界では「夢よもう一度」とばかりに供給を増やす動きが顕著になっている。

しかし、どうやら今回については、彼らの思惑通りにはならない可能性が高い。まず、都心居住が進む中、新築マンションは都心部でないとなかなか売れない時代に入ってきている。また都心のマンションも都心居住という「実需」だけで売れているのではなく、相続税などの「節税」ニーズや外国人投資家による「投資」ニーズで販売を補っているのが実態だ。彼らにとっては消費税率よりも相続税の節税効果や、短期間での売却益等が購入動機としては主体となるので消費増税が即、購入に走らせる動機にはつながらない。

また、ここ数年マンションの用地担当者は都心での用地取得に苦戦している。理由は2つ。ホテルの開発ラッシュでマンション適地であっても、ホテル会社との競合に敗れて用地を仕入れられないことがひとつ。そして、建設費の高騰で、土地代を含めたマンション販売価格が実需層である一般の消費者にはすでに手の届かない範囲にまで値上がりしてしまい、都心での商品企画が困難な状況になっていることがふたつめの理由だ。

それでも用地取得のノルマを抱える担当者が向かうのは、土地代が安い郊外ということになる。今後マンション市場では郊外のマンション販売が急増すると言われているのは上記が理由なのだ。

しかし、この作戦はどうだろうか。都心居住に「逆行」してまでも、今の実需層が新築マンションを購入しようと思うだろうか。都心の中古マンションに対する人気は高まるように思うが、郊外の新築マンションに「駆け込み需要」が発生するとは考えにくいものがある。

また前回の「駆け込み需要」は、翌年に大幅な供給減となり、業界では当初、これを需要の先取りによる「反動減」と表現したが、実際にはその後もマンション供給戸数は減り続け、2016年には3万5672戸と4万戸の大台を割り込む状況となっている。

このことからも今回の税率アップがマンション業界の「干天の慈雨」と期待するのはやや楽観的にすぎるのではないだろうか。

また東京五輪開催まであと2年に迫る中、これまで投資用で買われていたマンションの多くが「鞘取り」を目論んで売却する住戸が増加することが見込まれる。これらのマンションの多くが、東京湾岸部のタワマンなど比較的都心部に立地する物件が多いため、中古市場には都心物件も数多く出回ることとなりそうだ。郊外の新築よりも都心部の中古を選択する実需層が多いかもしれない。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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