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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#6 相続対策が招く一族崩壊(3/3ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2018/10/15

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あなたの幸せをどこまで考えているかは怪しい

アパート建設は、たくさんの土地を所有するオーナーであれば、ほぼ必ず業者や銀行がやってきて有利な節税対策になるとのセールスを受けることが一度や二度ならずあるはずだ。実際に更地で所有したままで相続が発生するよりもアパート等の賃貸建物を、借入金を活用して建設し、運用を行ったうえで相続を迎えるほうが、相続税ははるかに安くなるというのはそのとおりである。

しかしそのストーリーはあたりまえだが、アパート事業というビジネスが順調であることが大前提だ。日本は少子高齢化が進行していることくらいは誰でもが知っているはずだ。そして、自分が所有する土地の周辺に、アパートニーズがどの程度ありそうか、そのくらいはセールスマンの口上を聞くだけではなく、自分でよく考えて判断したいものである。

自分のアパートを建設してから周りに同じようなアパートが建って驚いたなどという感想もよく聞くが、業者が自分だけに耳寄りなアパート投資の話をしているはずがない。エリア内の需給バランスと将来的なリスクくらいには目を配っておきたいところだ。

トラブルになりやすいのが、サブリースだ。サブリースはアパート業者が一定期間アパートを借り上げて、賃料を保証してくれる仕組みである。だからアパート事業など何も知らなくとも安心と考えがちだ。たとえ空室が多くとも業者が保証してくれるからだ。

しかしアパート業者とて、商売である。こうした契約にはいろいろな条件を付して、大きなリスクを会社としてもとらないように工夫をしている。多くの場合は建物賃貸借契約期間とサブリース契約期間が異なることだ。賃貸借期間は30年であってもサブリースによる保証は10年間だけだったり、保証金額も5年で変更できるといったものもある。また、サブリース期間満了時には、指定された業者によるリニューアル工事を行わなければサブリース契約を継続しない、といった条項も多くの契約内容に見ることができる。サブリースは業者にとっても大きなリスクなのだ。当然そのリスクをどこかで穴埋めしなくては彼らだって商売にはならないのである。

金融機関もあまり信じてはいけない。彼らは融資を行うことで「自分のノルマを果たしたい」と願っているだけで、あなたの未来の幸せをどこまで考えているかは怪しいものだ。たとえ、十数年後にあなたの借入金が焦げ付いたとしても、もうそのお店からは異動していなくなっているので責任を目の当たりにする心配もないのだ。

このように調子のよい担当者や銀行員の弁に乗せられて契約内容をよく理解せずに、金融機関から言われるままに多額の借入金を調達し、アパート経営を始めたつもり、になっている不動産オーナーが数多く存在する。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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