ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

転貸借契約(2/2ページ)

森田雅也森田雅也

2017/04/20

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

解除の時期

民法612条2項の解除規定は、「第三者に賃借物の使用又は収益をさせたとき」と規定されています。すなわち、賃借人が第三者と転貸借契約を締結しただけでは、解除原因にはなりません。あくまでも、第三者が現に、当該賃借物の使用収益を「開始」した時点が解除原因の発生時点となります。

ここで、例をあげましょう。上述と同様に、賃貸人A、賃借人及び転貸人B、転借人Cとします。賃借人Bが転借人Cに対し賃借物を転貸する場合、民法613条1項の規定によると、賃貸人Aの同意が必要となります。

しかし、賃借人Bは賃貸人Aの同意を得ずに、転借人Cと転貸借契約を4月1日に締結し、入居日を4月15日に設定し、転借人Cも4月15日に居住し始めたという場合において、賃貸人Aが賃借人Bとの賃貸借契約を解除できるのは、4月15日からであって、4月1日からではないという規定が民法612条2項の規定です。

なぜ、転貸借契約締結の日ではなく、賃借物の使用収益が現に開始されたときなのか。それは、転貸借契約が締結されただけでは、賃貸人Aはなんら不利益を被っていません。ただ、第三者に賃借物の使用収益を行われる蓋然性が高いというのみです。この時点において賃貸人に対し契約の解除権を認めてしまうと、賃貸人は不利益を被っていないのに契約を解除できてしまい、賃貸人の保護と賃借人の帰責性(無断で転貸借契約を締結したという責任)とのバランスがとれません。

したがって、賃貸人に解除権を認めるためには、相応の賃借人の帰責性を必要とし、それが転借人の賃借物の使用収益を開始した時点で均衡がとれるという意味になります。

解除の制限

条文には規定されていませんが、賃借人が賃貸人の同意なくして賃借物の使用収益を第三者に行った場合において、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合には、無断転貸に対し賃貸人は契約の解除を行使することができません(最判昭28年9月25日)。

これは、上述したように本来、契約は両当事者の合致によって始めて成立するところに関わります。ただし、賃貸借契約においては、賃借人の住居という生活に欠かせない部分が契約の主になるので、賃借人の保護の要請が強い性質をもちます。そこで、転借人が賃貸人に対し、なんら不利益を被る場合でないときや、賃借人が無断で転貸借契約を締結しても賃貸人に対しての背信性がない場合にまで、賃貸人に対し当該賃貸借契約の解除権を認めることは、賃貸人に対し保護が強すぎるという意味で、契約の解除権が制限されます。

このように、賃貸人は賃借人と契約を締結しますが、その賃借人が無断転貸をした場合において賃借人はすぐに解除権を行使できるわけではありません。まず、第三者の賃借物の使用収益が現に開始されたか、開始されたとして、賃借人の無断転貸が賃貸人に対して背信性があるのか。背信性がある場合に契約の解除ができることになります。賃貸借契約は、このように条文だけではなく、判例法理が確立している部分が多いところなので条文だけではなく何か問題が起きたときは専門家に相談するのをおすすめします。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

ページのトップへ

ウチコミ!