小説に学ぶ相続争い『女系家族』⑤――遺言執行人は果たして必要な存在なのか?(2/2ページ)
谷口 亨
2021/11/12
遺言執行人と受託者の違いとは
さて、ここで「遺言執行人は必要ない」という話に戻しましょう。
なかには、「当時の遺言執行人は、現代の受託者の役割をしているのではないか」と思う方もいるかもしれません。この連載でも、何度も「受託者」という言葉が登場しています。
しかし、遺言執行人と受託者は、その役割も重要性もまったく違います。
遺言執行人は、さきほどもお話しした通り、遺言書の通りに相続を執行するだけの仕事しかありません。
一方で、受託者は、信託契約を結んだうえで、財産を長年にわたって管理していく役目を持っています。
遺言執行人に任された財産は、相続人に分配が終わればそれで終了です。
受託者に託された財産は、受託者によって管理され、ある意味、被相続人が亡くなっても長く“生き続ける”ことができます。
だからこそ、不動産などの財産を多く所有している場合には、信託契約を結ぶことで、もめごとを避け、財産を有効に生かし続けることができるのです。
嘉蔵さんが相続方法を明確にせず、相続人たちに分配方法を丸投げした共同相続財産についても、遺言執行人に任せるのではなく、信託を使うことで、宇市さんのごまかしはもちろん、3人娘のもめごとも避けることができるはず、というわけです。
【連載】
小説に学ぶ相続争い『女系家族』①――相続争いがはじまる根本的な原因はどこにあるのか
小説に学ぶ相続争い『女系家族』②――財産を次の代に引き継ぐ、相続を考えるタイミング
小説に学ぶ相続争い『女系家族』③――分割しにくい不動産を含めた「共同相続財産」の遺し方
小説に学ぶ相続争い『女系家族』④――相続をひっかきまわす迷惑な人々の介入をどう防ぐか
「犬神家の一族」の相続相談
この記事を書いた人
弁護士
一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。