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「HARUMI FLAG」住民訴訟に新たな動き 不動産鑑定士たちが指摘する激安価格のカラクリと問題点(1/3ページ)

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文・写真/立木 信

疑問の声を上げはじめた不動産鑑定士たち

東京五輪の選手村用地の売却価格が安すぎるとして都民から東京都に対する住民訴訟に再度、不動産専門家の注目が集まっている。

中でも「もっとまともな不動産鑑定士、不動産鑑定業者になれ」、「不動産鑑定士への信頼を著しく貶めるような事をするな」という大物鑑定士の意見が出はじめている。そもそも不動産鑑定士業界は政治的には無関心だったが、その不動産鑑定業界が重い腰を上げて、東京都や都議会に東京・晴海における都有地売について重大な疑義を投げかけている。

「現在の不動産鑑定士のあり方を根底から考え直してみようとする鑑定塾が始まった」というのは「不動産鑑定制度研究会」(代表・平澤春樹不動産鑑定士)だ。

東京都中央区晴海の選手村に使われた後にマンション群となる「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」は東京駅からは4キロ程度の距離。築地市場跡地と豊洲市場の中ほどに立地する。ここが売り出されたのは2019年夏のことだった。売り出されたのはマンション5632 戸のうち、分譲分の4145戸。予定価格は90 ㎡の3LDKで8000 万円程度。坪単価にすると300万円前後だ。

この選手村用地売却問題は、すでに都への監査請求を経て、東京地裁で訴訟になっており、次回の法廷は12月8日に開かれる。この訴訟の争点は、選手村・HARUMI FLAGのある一等地の地価が、周辺の地価にくらべて10分の1以下の激安価格で大手不動産会社など売られたというものだ。

具体的には2016年末に東京都から三井不動産など開発業者11社に売却された土地の価格が1㎡あたり9万6784円に過ぎず、西多摩郡のほとんどの宅地よりずっと安いというものだった。選手村の近隣の晴海3丁目の 16 年の 公示地価(商業地)は、132万円ほどだから、その割引率はなんと9割引を超える。ここまで安くできた理由は都が用いた「開発法」という不動産鑑定法があったからだ。

こうした都やデベロッパーに対して不動産鑑定制度研究会は、都議会対して専門的な意見書を送って選手村問題に疑義を呈している。

研究会に参画している不動産鑑定士によるとその内容は、①土地価格は選手村を建築することによって1割以下に激減することはあり得ない、②晴海選手村都有地の平均売却価格1㎡単価9万6800円は八王子市住宅地の平均12万2700円(平成28年東京都地価調査)より低い価格水準と指摘する。そのうえで研究会の調べでは、東京五輪選手村の利用開発では、11社に129億6000万円(1㎡当り9万6800円)で広大な都有地を一括処分。研究会は、この13.3万㎡の土地価格は、1611億1800万円(1㎡単価120万円)が妥当で、都が処分した価格との差額は1481億以上に達するという。

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この記事を書いた人

経済アナリスト

マクロ経済面から経済政策を批評することに定評がある。不動産・株式などの資産市場、国や自治体の財政のバランスシートの分析などに強みを持つ。著書に『若者を喰い物にし続ける社会』(洋泉社)、『世代間最終戦争』(東洋経済新報社)、『地価「最終」暴落』(光文社)などがある。

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