映画で俄然注目! 事故物件住みます芸人・松原タニシから賃貸住宅オーナーへの貴重なメッセージ(4/4ページ)
朝倉 継道
2020/09/04
オーナーはもっと発信するべき
松原さんに、賃貸住宅オーナーについて尋ねてみた。すると、これまで住まれてきた事故物件のオーナーと接触した経験は一度もないという。
「そもそも始めのころの僕もそうですし、芸人仲間を見回してもそうですが、多くの借り手さんが、物件にはオーナーがいることを知らなかったりするんです。部屋は不動産屋さんが貸してくれているんでしょ? 違うの? 彼らは仲介するだけ? 管理会社って何…? そんな感じです。賃貸物件が流通する仕組みは、一般にはあまり知られていないのが現実だと思います」
であるがゆえに、「賃貸物件内で事故の原因をつくってしまう人にも、同じことがいえるのではないか?」というのが松原さんの見方だ。すなわち、ローンを抱え、ギリギリの経営に奮闘しているオーナーの姿というのが、多くの皆さんには想像できない。存在自体も知られていない……。
そこで、松原さんにある数字を見てもらった。一般社団法人日本少額短期保険協会が2019年に公表している数字だ。これを見ると、協会が把握している賃貸物件内での孤独死における自殺の占有率は高く、死因の約11%にのぼっている。厚労省統計による死亡者の全死因に対する自殺の割合1.5%程度を大きく上回っている。
出典/一般社団法人日本少額短期保険協会「第4回孤独死現状レポート」(2019)
言うなれば、「物件内で不幸にして殺人の被害に遭われたり、病気でお亡くなりになったりは仕方がない。せめて自殺はやめてほしい」というのが、賃貸住宅オーナーの偽らざる本音だろう。
さらに、オーナーが被る損害額も見てもらった。最大で180万円近くにのぼっている残置物処理費用や、400万円を超えるケースも報告されている原状回復費用。数字にはなっていないが、事故物件のダメージから回復するまでのさまざまな苦労。生活破綻するオーナーさえいること。そのうえで、松原さんに「ぜひオーナーにメッセージを」とお願いしてみた。すると……
「こういう事実は、もっと広く知らされるべきだと思います。賃貸アパートやマンションの多くに、個人のオーナーが存在するということ。事故物件によってその人たちに大変な損害が生じることもあるんだということ。それらをみんなにもっと知らせた方がいい。そのことが、孤独死を少しでも減らす方向に、自殺を少しでも減らす方向に、社会が動くことにもつながっていくのではないでしょうか。とにかく、みんなオーナーのことってよく知らないんです」
たしかに、賃貸といえばオーナー=大家さんがいて、大抵は物件のそばに住み、入居者は誰もが自分の住む家の持ち主はその人だと知っている、そんな風景が普通だった時代は、もう遠い過去のことなのだ。
事故物件住みます芸人・松原タニシさんからの「オーナーの存在をみんなに伝えなきゃ」とのメッセージは、その意味で、欠けていた何かを拾って差し出してくれたような温かなアドバイスに思えた。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。