映画で俄然注目! 事故物件住みます芸人・松原タニシから賃貸住宅オーナーへの貴重なメッセージ(2/4ページ)
朝倉 継道
2020/09/04
インタビュー冒頭に異変が発生!?
最初に松原さんに尋ねてみた。初めて事故物件に住み始めたときの心境だ。松原さんは2012年に出演していたテレビ番組の企画に自ら名乗りを上げ、こんにちに至る事故物件暮らしを始めている。
「もちろん、最初は怖いなと感じました。誰かが悲惨なかたちで亡くなった物件に住むなんてありえないという感覚を僕ももっていました。なので、住み始めて1カ月くらいは怖かったですよ。ちょっとでも何かが起これば、心の中で全て物件に結びつけてしまう。でもそのときは、誰もやらないことだからやってみよう、やってやろうという気持ちも僕の中にあったんです。ついに1年間住み続けました」
ちなみにこの1軒目の物件、松原さんが最新の著書で「ここを超える怪物件とはまだ出合えていない」と語るほどの物件だ。マンションなのに奇妙な家鳴りが日常的に聞こえ、定点カメラには肉眼では見えない不思議な光が写り込む。浴室のミラーに文字が浮かぶという怪現象も、松原さんはここで目の当たりにされている。
ここから始まった……事故物件1軒目(写真/本人提供)
と、ここで異変が生じた。松原さんが突然腹痛に襲われ、一旦退席せざるをえなくなったのだ。もしや、自分や賃貸住宅オーナーが背負ってきた想いが松原さんにのしかかったのだろうか? 亡くなった人も怖いが、生きている人はもっと怖い。
約10分後、元気な笑顔で戻ってきた松原さん。問題なく取材は続行できそうで一安心だ。
特殊清掃にも飛び込んでみた
松原さんは、これまでに10軒の事故物件で暮らしている。その途中、特殊清掃の現場も何度か体験している。
「誰もが目を背けたがる場所に足を踏み入れようと思ったんです。僕は事故物件に住んでいるんだと、世の中に発信する以上、見ておかなければいけないとも思いました」
専用の装備に身を包み、実際に清掃作業も行っている。現場はいずれも孤独死が起きた部屋だったそうだ。
特殊清掃装備姿の松原さん(写真/本人提供)
「部屋がきれいになって、次の借り主に渡される。そうなる前はどうなっていたんだろう、誰がどうやってきれいにしているんだろう。そこを見ておきたかったんです。現代の死のかたちのひとつにふれることができました」
なお、同じ事故物件でも、殺人事件の場合は大々的に報道されるなどのインパクトが入居者募集への障害となってあとあとオーナーにのしかかる。孤独死や自殺の場合は、発見が遅れてしまったケースがとくに厳しい。遺体の腐敗によって、物件が汚損することが多いからだ。状況によっては原状回復費用が数百万円単位に跳ね上がることもある。
そこで近年、事後の補償は充実してきている。オーナーを守るための保険の整備が進んでいるためだ。しかし一方で事前の備えはあまり進んでいない。孤独死や自殺の早期発見やそれ以前の予防は、入居者の高齢化も踏まえ、現在、賃貸経営を行ううえでの大きな課題となっている。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。