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損保各社が水害ハザードマップに「水害保険料」を明記!?――さらに見える化が進む水害リスク(3/3ページ)

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水害対策 見えてきた限界

水害が発生する原因も変わってきている。昨年の台風19号の堤防越水は約140カ所、今年7月豪雨は約120カ所で越水したとみられている。こうした河川の氾濫では2級河川以下からの水流が本流の壁にあたり逆流しての越水事例も目立つようになった。

河川の氾濫防止のために堤防を高くしても、被害が収まるとは言い切れない。実際、18年の台風21号では、関西空港の6mの堤防から海水が浸入し、空港が水浸しになった。芦屋浜では10メートル級の高さの堤防が突破され、兵庫県が分譲した住宅が水没させられている。こうした水害の潜在リスクは想像を超すものだ。山梨大の秦康範准教授の試算によると、浸水想定区域に住む人は2015年の時点では、約3500万人もおり、日本の全人口の3割近くにのぼる。

さらに今夏、賃貸を含む住宅取引の売り手側の重要事項説明義務として浸水リスクの説明が加えられた。売買にしろ、賃貸にしろ、水害に弱いエリアでは成約の「障害」となる可能性がある。地域の行政、都市計画においては、人口減少を受けてコンパクト・シティ化を推進する流れにある。だが、居住誘導区域が、ハザードマップの基準見直しで、浸水に瀕する危険性が増えそうだ。

しかも、水害が起こった際の避難所とされている施設も、この浸水被害の地域にあるものもある。コンパクト都市という名の集住化も、災害対策の観点からかなりの見直しが必要と迫られそうなのだ。

浸水被害に遭わないための最後の自衛手段は

水害対策を大別すると2つの方法がある。それは堤防のかさ上げ、もしくは住居の移転だ。いずれも、国、自治体、個人という負担者の違いはあっても、膨大な予算を必要とし限界がある。そのため現実的な対策としては、洪水危険エリアの河川の越水個所を徐々に補強するといったことぐらいだが、前述したとおり堤防を高くしても安全とは言い切れない。

あまり知られていないが、国には、災害の危険がある地域の住居の移転を促す補助制度がある。市町村の計画に対して国が事業費の9割程度を負担する。1972年に制度ができて以来、約3万9000戸が移転した、という。ただ、そのほとんどは東日本大震災がきっかけで、被災する前に移転が決まった例は少ない。また、高齢化も引っ越しには壁となっている。

加えて、大きな問題が高齢化だ。昨年からの台風など風水害で被害を受けた老人ホームなど高齢者施設は全国で100カ所程度。この背景には高齢者施設建設費の制約が関係している。有り体にいってしまうと、高齢者施設は地価の安い河川の近くなどに立地しやすい。

自然災害の多い日本は、これまでこうした公共事業に巨費を投じてそれを抑制してきた。その結果、もたらされたのが先進国で最悪ともいえる公的債務(政府・自治体の借金)だ。さらに高齢化が進む中で、今後は社会福祉の費用負担も大きくなる。

つまり、「命の安全が第一」とするのであれば、政府や行政、税金だけに頼らずに、個人が居住地を変える選択を検討することが必要になってきている。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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