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他人事ではない台風時のリスクをどうカバーするか? 自然災害の被害を支援する制度と保険

鬼塚眞子鬼塚眞子

2020/07/01

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文/鬼塚眞子+編集部

「二重ローン」の負担を軽減

7月に入り本州・四国・九州では梅雨も半ばを過ぎ、後半に入った。ここ数年、台風や集中豪雨による被害は増えているが、今年もその傾向は続きそうだ。6月には九州地方では避難指示が出されており、関東でも7月に入っていきなり横浜市内の一部に避難勧告が出されているのだ。

こうした集中豪雨や台風によってもたされた甚大な被害としては2019年9月9日に上陸した台風15号は関東、とくに千葉県に大きな被害を与え、内閣府(19年12月5日)の発表によると、最大で約93万4900戸への電力供給の支障を引き起こし、家屋への被害は全壊342棟、半壊3927棟、一部損壊7万397棟という大きな爪痕を残した。

これまで自然災害というと、大規模地震に意識がとらわれていたが、毎年発生する台風による風水害の影響は、産業だけでない。むしろ、個人の生活に対しても被害を与え、その後の人生に大きな影響を与えることに違いはない。とくに自然災害では、生活の基盤になる住宅を失うということがあるため損失は大きく、住宅ローンが残っている家屋を失った人の経済的な負担は大きなものになる。しかも、住宅を再建するには新たに住宅ローンを組むことになるため、これまでも大きな自然災害が起こるたびに、「二重ローン」の問題は復興のための課題とされてきた。そして、11年の東日本大震災のときにこの二重ローンの負担を軽減、支援するための手続きが整備された。

それが、全国銀行協会などがまとめた「自然災害債務整理ガイドライン」というもので、自然災害が原因の場合は特別な債務整理の手続きを利用できるもの。

 

一般社団法人全国銀行協会HPから閲覧できる「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」

その内容は災害救助法で指定された自然災害が対象となり、借入先の銀行に申し出れば無料で弁護士らに相談し、金融機関との話し合いを行い、被災後の生活に必要な資金を手元に残しやすくなるのが最大の特徴だ。

具体的には、自己破産によって住宅ローンなどの債務を免除する場合は、保有資産を処分して99万円までしか手元に残せない。しかし、このガイドラインでは、債務整理をしても最大で500万円を確保でき、災害に対する義援金も手元に残せる。また、債務整理したことが個人の信用情報にも残らないので、新たにローンを組む、クレジットカードを作る際の影響を少なくすることができるといったことなどが、大まかな内容だ。とはいえ、被災をした人すべてがこうした対象になるというわけではない。基本的には借入先の金融機関と相談したうえで、適用になるかが決まる。

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自然災害をカバー 火災保険の特約

自然災害に遭遇した際にこうした制度を利用することは1つの方法だが、災害への備え、つまり、保険によって対応するということも可能だ。

自然災害に対応した保険というと、地震保険が思い浮かぶかもしれない。しかし、台風などの自然災害で自宅の被害に遭った場合の補償はちょっと違う。台風などの災害によって新たに自宅を建て直すことになったとしても、「個人用新価保険特約」 のある火災保険に加入していれば(現在は新価保険が主流だが、なかにはまだ時価と新価を選択できる保険もある)諸条件はあるものの、再築できるだけの保険金が支払われる。

個人用新価保険特約とは、火事以外の風水害などの自然災害で自宅を再築しなければならない場合、火災保険で自宅再築のための保険金を受け取れるというものだ。ただ、再築するには罹災後、2年以内という縛りはあるものの、建物の復旧有無にかかわらず、被害を受けた同一敷地内に、同等・同質の建物を、再築(新築)するための保険金を受け取ることができる。

つまり、火事や自然災害などで住むことができなくなり、住宅を再築する場合、個人用新価保険特約を付けた火災保険に加入していれば保険金内にはなるが、保険によって家の新築費用を何とかまかなえることになるというわけ。ただし、これは新しく家を建てるための資金に使えるということで、被害を受けて住めなくなった家のローン返済に使えるわけではない。

自然災害で家を失ってしまった場合は、自然災害債務整理ガイドラインに沿った支援はあるが、金融機関への住宅ローンがなくなるということはない。また、そうしたローンを解消する保険もいまのところはない。

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アパートローンも対象 「住宅ローン特約」

残念ながら、災害でローン返済中の家を失ってもローン残金は残されたままで、完済するまで払い続けていかなければならない。つまり、新たな家の建築費は保険金でなんとかなっても、失われた家のローンは残される。しかし、「災害などで失われた家のローンを払い続けるのは……」という思いはある。こうした声に応えた住宅ローンが、都市銀行や地方銀行の一部で発売され、自然災害の多発するなかで脚光を浴びている。

この住宅ローンは、自然災害などで住宅が全壊、または大規模半壊し、住むことができなくなった場合、その期間に毎月返済するローンの一部を免除するという「自然災害サポートオプション」といわれるもの。具体的には三井住友銀行、常陽銀行が扱っている「自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン」や、りそな銀行の「自然災害時支援特約付住宅ローン」といった名称の住宅ローン特約だ。

一方、火災保険には被災した家の住宅ローンをカバーする保険はないといったが、ローンの一部を補填する保険はある。それが、カーディフ損保が発売し、イオン銀行、愛媛銀行、北日本銀行が住宅ローンのセット商品として発売している「居住不能信用費用保険」というもの。

この商品は地震・台風・津波・土砂崩れ、風水害などの自然災害に加えて、火災や物体の落下など一般災害も補償の対象となっている。保険金の支払要件は、居住不能期間中の保険金支払対象月のローン契約の予定返済額(ボーナス返済月は、その返済額と月々の返済額)を保険金として支払うというもの。年間支払額は2400万円以下になる。つまり、ローンの残債をすべて払ってくれるわけではなく、あくまでも住むことができない期間中のローンをカバーしてくれるというものだ。

1回の居住不能における補填期間は、イオン銀行は最長6カ月(通算最大36カ月)、愛媛銀行は最長6カ月(通算最大36カ月)、北日本銀行は最長12カ月と、取り扱いの銀行によって異なる。補償の終了は、住宅 ローン契約が終了したとき、所定の支払限度期間分の保険金が支払われ、支払限度期間が終了したとき、ローン債務者が所定の年齢に到達したときと定められている。

この居住不能信用費用保険は新規で住宅ローンを契約する場合。また、イオン銀行、愛媛銀行、北日本銀行などでローンの借り換えを行う場合も加入が可能だ。ただし、すでにこれらの銀行で住宅ローンを組んでいる場合は、中途で加入することはできない。

これに加えて賃貸住宅オーナーも使えるものとしては、アパートローン特約も準備されている。アパートローンを補償対象に含める場合は、被保険者の所有するローン対象賃貸建物を保証する。契約者は金融機関。被保険者の所有するローン対象建物が、債務者の転勤などにより一時的に賃貸される場合も保証してもらえる。

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知っておきたい 税金の落とし穴

災害時においてはさまざまなサポートがあるが、税金の扱いについても見落としてはいけない。

たとえば、イオン銀行、愛媛銀行、北日本銀行が取り扱う商品は、住宅ローン債務者(住宅ローンを借りる人)が被保険者となる保険制度のため、支払われる保険金は非課税になる。しかし、他行が取り扱う住宅ローンの自然災害補償は、銀行と保険会社間で保険契約を締結する自然災害債務免除制度のため、免除された金額は雑所得とされ、課税対象となる。

住宅ローンを比較する際は、金利ばかりにとらわれてしまうが、特定疾病保障付や買い物が割引になるなど、住宅ローンにはさまざまな付加価値のついたものも登場している。これから新たに住宅ローンを組む、あるいは借り換えを考えるにあたっては金利だけでなく、こうした自然災害のリスクに備えたサービスなどにも目を向け、多角的に検討したい。

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この記事を書いた人

一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会理事長

アルバイトニュース・テレビぴあで編集者として勤務。出産を機に専業主婦に。10年間のブランクを経て、大手生保会社の営業職に転身し、その後、業界紙の記者を経て、2007年に保険ジャーナリスト、ファイナンシャルプランナー(FP)として独立。認知症の両親の遠距離介護を自ら体験し、介護とその後の相続は一体で考えるべきと、13年に一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会(R)を設立。新聞・雑誌での執筆やテレビのコメンテーター、また財団理事長として、講演、相談などで幅広く活躍している。 介護相続コンシェルジュ協会/http://www.ksc-egao.or.jp/

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