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全力都市 福岡! その成長の理由を探る(2/4ページ)

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経済効果5000億円「博多コネクティッド」

開発は天神だけにとどまらない。博多駅周辺のプロジェクト「博多コネクティッド」でも負けず劣らずの再開発を実施する。博多駅周辺は11年の九州新幹線開業にあたりそもそも賑わってはいるものの、陸の玄関口としてさらなる発展を促すという狙いがあるという。

その概要は、JR博多駅から半径約500mの約80haのエリアで、10年間のうちに20棟の建て替え誘導を目指すというもの。そしてこの博多コネクティッドを契機に西日本シティ銀行はJR博多駅前の本店ビルを建て替える方針を固めている。

福岡アジア都市研究所によると、博多コネクティッドにおける試算は、延床面積で約1.5倍(34万1000㎡→49万8000㎡/+15万7000㎡)、雇用者数は約1.6倍(3万2000人→5万1000人/+1万9000人)、10年間の建設投資効果は約2600億円、建て替え完了後の経済波及効果は年間5000億円としている。

さらにキモとなるのは、地下鉄七隈線の延伸工事である。これは天神南駅から博多駅までを結ぶもので、本来であれば今年開業する予定だったが、16年11月8日に発生した「博多駅前道路陥没事故」により遅れ、22年の開業予定としている。天神地区まで約2kmということもあり、これが繋がることによって、今後の天神ビッグバンにおける天神の盛り上がりと博多コネクティッドにおける博多駅周辺の盛り上がりが融合し、さらなる相乗効果が見込める可能性もある。


博多コネクティッドを契機に建て替えをする方針を固めた西日本シティ銀行 本店/PHOTO 吉田達史

経済効果2000億円「ウォーターフロントネクスト」

そしてウォーターフロントネクストである。もともと九州北部は古来、海洋都市であった。朝鮮半島や中国大陸も近く、貿易などで地の利のあるエリア。裏を返せば有事の際、困難な局面にさらされる可能性も高い。事実、鎌倉時代にはモンゴル帝国(元朝)とその属国である高麗によって2度にわたる侵攻にさらされた。1度目は1274年(文永11年)の文永の役、2度目は1281年(弘安4年)の弘安の役で、ひと昔前までは神風(暴風雨)によってモンゴル帝国と高麗の連合軍を退けたとされていた。ただ、連合軍の撤退に関して、現在ではさまざまな解釈があり一通りではない。

しかし平時であれば地の利が生きる。1世紀から3世紀前半にかけて現在の福岡市周辺に存在したといわれる奴国(なこく)では、当時からすでに、真綿や穀物を朝鮮半島に輸出し、朝鮮半島からは鉄を輸入していたということからも、貿易拠点としての歴史は長い。

このように、いにしえより海洋都市として栄えた周辺は、フォーターフロントネクストによって再び生まれ変わる。もともとウォーターフロント地区は、展示会やコンサートが開催できるマリンメッセ福岡、複合商業施設のベイサイドプレイス博多、福岡国際会議場、福岡国際センターなどのMICE(企業の会議=Meeting、企業の行う報奨・研修旅行=Incentive Travel、国際機関・団体、学会が行う国際会議=Convention、展示会・見本市、イベント=Exhibition/Eventの頭文字をとったビジネスイベントの総称)施設が集積し、定期旅客船やクルーズ船の就航があることからも、国内外からの交流が盛んなエリアだ。近年ではMICEの開催数やクルーズ船の寄港が増大したことにより既存施設では対応しきれず、年間推定約800億円の需要を断らざるを得ない状況が続いていたという。

この機会損失を解消し、海の中継地点としてアジア、そして世界との交流をさらに促進するための計画が、このウォーターフロントネクストである。対象区域は中央ふ頭・博多ふ頭周辺の65ha。その再整備の内容は次のようになる。

まず、MICE機能に関しては施設における開催余力の向上、関連施設を徒歩圏内に配置し、一体化させるオール・イン・ワンの実現。次に中継地点の機能強化として、大型クルーズ船の2隻同時着岸、観光バス待機場の拡充、国際フェリーやクルーズ船に対応した多目的岸壁整備。そして福岡都心部として新たな魅力を創出するための賑わい・集客機能の拡充などを再整備の基本方針としている。この3つに加えて、周辺部へのアクセスを強化するために都心循環バス高速輸送システムの専用道路の計画なども含まれている。

福岡市はこれらの再整備における概算費用を官民協同事業として想定した場合約400億円とし、再整備における経済波及効果は年間約2000億円を見込んでいる。ただ完了までに20〜30年を要する中長期のプロジェクトでもあるので長い目で見ることが必要かもしれない。単純計算であるが、天神ビッグバン、博多コネクティッド、ウォーターフロントネクストのすべての再開発・整備が完了した際の経済波及効果の想定は、1兆5500億円(年)となる。

一方で疑念もある。つまり、これだけの再開発・整備をしたとしても結局は既存のパイを奪い合っているだけで、本当の意味での経済効果を生みだすことは難しいのではないかということだ。福岡市に拠点を置く会社役員はこう話す。

「大規模再開発に伴うプロモーションの仕事をしているのですが、特にイベントの案件が年間を通じて予定されている。開発に関してはここ10年間の事案であり、開発終了後の福岡の景気に関しては未知数。しかし博多エリア・天神エリアの再開発は完了することにより雇用拡大などは期待できるのではないか。ただ市内集中型の開発なので、周辺の衛星都市が今後どうなるかという懸念はある」

確かに再開発には莫大なカネも動くし、経済波及効果もあるだろう。しかし永遠の自転車操業といった側面があるのも事実だ。だからこそ、特区としての施策の本丸は、そのソフトでもある「スタートアップ」と「雇用創出」でなければならない。そして一連の再開発のプロジェクトと、これらが融合することで、福岡市が目指す「アジアのリーダー都市」への道が拓けてくるはずだ。


ウォーターフロントネクストでは海の中継地点としてアジア、そして世界との交流をさらに促進させる/PHOTO 吉田達史 

地の利と支援制度がスタートアップを促す

では、なぜ福岡市がスタートアップに最適なのか。もちろん特区として推進しているからに他ならないが、特筆すべきは前述した天神ビッグバンの天神エリア、博多コネクティッドの博多駅周辺、ウォーターフロントネクストの中央ふ頭・博多ふ頭、そして福岡空港はなんと半径2.5km内に収まるほどのコンパクトさを誇る。福岡空港を利用したことがある人なら理解いただけると思うが、空港から市街地までこれほど簡単にアクセスできる都市はそうそうない。国内はもちろん、諸外国からのアクセスも良好となればビジネスのしやすい環境であるのは間違いない。しかもこれだけアクセスがよいにも拘らずオフィスの賃料が安いというのも魅力的だ。

そしてスタートアップ企業にとって心強いのが「スタートアップ法人減税」制度だ。1つは最大5年間、法人所得の20%を控除し、法人税(国税)を軽減するというもの。もう1つは法人市民税を全額免除するという創業支援制度だ。その主な要件は、以下の通りだ。

■創業から5年未満の法人であること
■国家戦略特区の規制の特別措置等を活用するなど、一定の要件を満たすこと
■国税対象の「医療」「国際」「農業」「一定のIoT」という4つの分野に、福岡市が独自に定めた「先進的なIT」の分野で革新的な事業を行う法人であること

これにより期間限定ではあるが、法人所得の控除と法人市民税の免除が適用されれば、22%台という法人実効税率となり、中国の25%、韓国の27.5%と比較しても国際競争力のある数値となる。

そのほかには2015年3月に閉校となった旧大名小学校が、17年4月にスタートアップの中心地として生まれ変わったFukuoka Growth Next(以下、FGN)などがある。このFGNは創業したい人、またはそれを応援したい人が交流するための拠点となっている。開始から19年3月末までの実績でいうと、支援企業数250社以上、資金調達した法人が31社、累計資金調達が82億円以上となっており、かなり積極的に活用されていることがうかがえる。


旧大名小学校がスタートアップの中心地「FGN]として生まれ変わった/PHOTO 吉田達史

さらに外国人のチャレンジを応援するための施策で「スタートアップビザ」というものもある。この施策は15年12月から開始されている。その具体的な内容としては、外国人の創業活動を促すために、在留資格(経営・管理)の取得要件を満たす見込みのある外国人の創業活動を特例として6カ月間認めるというもの。

いままでであれば外国人が日本で事業を行う場合、「経営・管理」の在留資格、さらに資本金もしくは出資の総額が500万円以上、事務所の開設、常勤2名以上の雇用が必須要件としてあり、かなりハードルが高かった。そこでこのスタートアップビザでは、たとえその要件が満たされていなかったとしても、福岡市に事業計画を提出し、スタートアップビザの在留期間中に「要件を満たす見込み」について福岡市がそれを確認し、入国管理局から認定を受けることで日本での事業を行うことができる。制度開始から19年3月末までの申請者数は67名、実際に創業を行った人は56名となっている。

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この記事を書いた人

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