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危険な木造「旧耐震」は、ほぼすべてが築後40年超。表面だけの築古再生は正しいのか?

朝倉 継道朝倉 継道

2022/10/24

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10年以上前の呼びかけ「もう賃貸経営はやめるべき」

もう12年くらいも昔のことになる。ある賃貸住宅オーナー向けメディアの編集長が、インターネット上でこんな呼びかけをしていた。

「旧耐震物件のオーナーは、もう賃貸経営はやめるべき」

耐震補強する気が無いのならば――と、続く。

これは、いわゆる「旧耐震」の危険性を念頭においてのものだ。なお、当時、東日本大震災も熊本地震も、われわれはまだ経験していない。

旧耐震とは? オーナーの多くが知っているはずだ。地震の揺れに対し、「この基準以上の強さで耐えられる建物を造りなさい」とする国による定めのうち、1981年5月31日までに建築確認された建物に適用されていたものを指す。

こんな変遷となる。

「旧耐震基準」…1981年5月31日までに建築確認された建物に適用
「新耐震基準」…1981年6月1日~2000年5月31日までに~同上
「2000年基準」…2000年6月1日以降に~同上

(上記は木造の場合。鉄筋コンクリート造などでは「新」が現行となる)

このうち、旧耐震基準の木造はとりわけ地震の揺れに脆弱なことで知られている。なおかつ、現在残っているものはそのほぼすべてが今年をもって建築後40年を超えた。つまり、著しく老朽化してしまっている。

現在もかなりの数が稼働する旧耐震アパート

では、そうした旧耐震基準による木造賃貸住宅=アパートは、現在どのくらいが世の中に残っているのだろう? 答えは「おびただしい数」となる。

その実態がとてもよくわかるのが、不動産ポータルサイトによる検索結果となる。

不動産ポータルサイトでは、知ってのとおり、物件探しをする際にさまざまな検索条件を付け加えることができる。もっとも、「築年の古い順で」といった条件は、通常ユーザー側にそれを利用するニーズが無い。そのため、どのサイトにもおそらく存在しないだろう。

そこで、簡単な工夫をする。「築年の新しい順」を選択する。そのうえで、リストアップされた物件の最後の方を見ていくわけだ。つまり、古い順となる。

たとえば、東京の荒川区だ。この9月に都が4年半ぶりの更新結果を公表した「地震に関する地域危険度測定調査報告書(第9回)」で、総合危険度1位と2位のエリア両方を輩出(?)している荒川区で、上記の検索をしてみよう。

すると、築45年、50年、55年、60年といった旧耐震時代のアパートが、それこそいくつも画面に登場する。さらに、65年、70年を超える文化財級の建物までが出現するに至っては、よくぞ生き残ったと、逆に感動さえ禁じえない。

なお、似た状況はもちろん別の地域でもあちこちに見られる。先日は、東京山の手の某区で築80年超というものすごい物件も目にした。戦前の築となる。真珠湾攻撃による日米開戦前年の竣工だ。

だが、そんな程度で驚いていては実はまだ甘い。この記事の原稿を書きながらさらに検索すると、東京都心のある区だが、なんと築90年超のアパートもある。建てられたのは満州国建国の2カ月前となっている。

「築古再生」は称賛されるべきなのか?

そこで、上記のような検索を実際におこなってみた人に尋ねたい。ひとつ気が付いたことがあるのではないか。それは、ざっと古い建物ほど、内外装をきれいにリフォームされたものが目立つということだ。

それらにおいては、たとえば汚れたモルタルの外壁がきれいに塗り替えられたり、洒落たサイディングが貼り付けられたりして、外観はほぼ一新されている。

内装も然りだ。畳敷きだった部屋にはフローリングもしくはフロアタイルが敷かれ、壁紙ももちろん貼り替えられている。

トイレ、キッチンなど水まわりも、いまどきの仕様にしっかりと変えられている。

加えて、玄関ドアも換装、さらに照明も、窓も、窓枠もと、要は建てられて半世紀以上も経つような建物が、一見すると新築と変わらない佇まいでいるケースがかなりの頻度で確認できるはずだ。

これらは、いわゆる築古再生された物件となる。センスにあふれた結果が出ているものなどは、しばしばわれわれを深く感動させる。古い物を大切に使い続けたいと願う多くの日本人の心も大いに揺さぶる。「素晴らしい仕事をしましたね」と、一見賞賛すべきもののようにも見えてくる。

だが、よく考えてみよう。その建物、見かけは美しくなったが中身の方はどうなのか?

床下・屋根裏の構造や壁の中もちゃんとリニューアルされているのか? 外見同様にいまどきの仕様に変えられているのか? すなわち耐震補強がされ、「新耐震」以降の基準に合致するものに生まれ変わっているのか?

その点、築古再生された旧耐震の木造アパートが、同時に耐震補強もされている(当然コストがかかる)例を筆者はあまり耳にすることがない。

ロフトがあれば入居者はモノを載せる

言いにくいことをあえていおう。旧耐震の外見だけを繕い、建物の中身は以前のまま……だとすれば、それはまずいのではないか? ということだ。

老朽化による滅失を逃れ、きれいにお化粧されたその物件が、外面的魅力によって顧客を誘引する力を高めたとするならば、それはある意味罪が重いのではないか?

われわれの社会に残る重大なリスクの存在をいたずらに長引かせ、命の危険を助長することになってはいまいか? ということだ。

なおかつ、こうした築古再生物件の中には、見ていてとりわけ不安なものもある。たとえば、先日瞥見したあるアパートの部屋には、古い時代にはほぼ見られなかったいまどき人気の設備があった。対面キッチンだ。

すると、筆者は当然心配になる。それは以前からのものだったのか? もしや、そこにあった壁をくり抜いて造ったということではないのか?

ちなみに、その建物は古いだけに、耐震性を壁にさほど頼らない、いわゆる在来工法・木造軸組の構造になっていると思われた。だが、それでも計算なく壁をぶち抜いたり、削ったりしたとなれば、強度の面でもちろんよい影響は及ぶまい。

ロフトを新たに設置したらしい事例も見たことがある。寝室化も余裕で可能な広いロフトだ。だが、築60年を超えるそのアパートの各部屋に、おそらくロフトという構造はもともと無かったはずだ。

しかし、いまはそれがある。なので、入居者はひょっとすると本来手放すべき多くの家財をそこに放り込んでしまうおそれがある。つまり、部屋全体の重さが、ロフトによって増加したキャパシティの分だけ余計に増す可能性が高まるわけだ。

なおかつ、その部屋は2階にある。同じ仕様の住戸が複数横並びになっている。つまり、この建物はトップヘビーになりやすい。

すると、筆者ならばとてもそのアパートの1階になど住む気になれない。大きな地震がくれば、トップヘビーで揺れやすいその建物の下層部分は即座に潰れる可能性がある。そうなれば、1階は上下にすき間もないほど圧縮された状態になる。

そこで、そんな状況の中、ひと思いに圧死させられるのならばまだいい。

恐ろしいのは火だ。潰れた部屋の中で身動きが取れずにいるうちに火災が襲う例は、日本の地震被害におけるいわば定番といっていい。阪神・淡路大震災でも見られた、地震によって起こる最大の人的悲劇のひとつだ。

建材や家具といった“焚き木”に挟まれ、生きながら焼かれようとする入居者を目の前にして、駆け付けたオーナーには為すすべなく、泣き叫ぶ声を背に逃げ出さざるをえないといったことも、もちろん起こりうる。

著しく高い旧耐震の倒壊・崩壊率

6年前(2016)の熊本地震は、多くの被害や犠牲と引き換えに貴重なデータをわれわれに残してくれている。

以下は、国土交通省・国土技術政策総合研究所「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書」などで見ることができる専門家の間ではかなり有名な数字だ。

木造建築物の倒壊・崩壊率
「旧耐震基準」…28.2%
「新耐震基準」…8.7%
「2000年基準」…2.2%

被害の無かった木造建築物の割合
「旧耐震基準」…5.1%
「新耐震基準」…20.4%
「2000年基準」…61.4%

このとおり、旧耐震での倒壊・崩壊率と、2000年基準の「無被害」率がいずれも際立っている。あらためて旧耐震のリスクが示された格好となる。

なお、熊本地震では16年4月14日にマグニチュード6.5の「前震」が発生、翌々16日には7.3の「本震」が発生した。

一方、東京都が今年の5月25日に公表した、今後30年以内の発生確率が70%の首都直下地震による被害においては、以下のような数字が想定されている。(東京都心南部直下で冬の夕方に地震発生と想定)

マグニチュード 7.3
全壊・焼失する建物 約19万4400棟
死者 約6,100人 内、揺れによる建物倒壊による死者 約3,200人
同、火災による死者 約2,500人
(東京都「首都直下地震等による東京の被害想定」)

さて、冒頭に戻ろう。

もう12年くらいも昔のことになる。ある賃貸住宅オーナー向けメディアの編集長が、インターネット上でこんな呼びかけをしていた。

「旧耐震物件のオーナーはもう賃貸経営はやめるべき。耐震補強する気が無いのならば――」

なお、当時、東日本大震災も熊本地震も、われわれはまだ経験していない。しかし、いまはどちらも経験した。し終えたのだ。

それでも、われわれの“良識”にいまだ変化が生じていないとすれば、それは病理的ともいっていいかなり深刻な問題になるだろう。

(文/朝倉継道)

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参考資料

(都が4年半ぶりの更新結果を公表した)
「地震に関する地域危険度測定調査報告書(第9回)」
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/chousa_6/home.htm

(国土交通省・国土技術政策総合研究所)
「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書」
http://www.nilim.go.jp/lab/hbg/0930/report190416.htm

(東京都)
「首都直下地震等による東京の被害想定」
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000902/1021571.html

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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