家主に一方的に有利な契約書 内容を変えてもらうことは可能か
大谷 昭二
2021/05/20
イメージ/©︎編集部
本来は家主も借主も立場は平等
Q.契約書をよく見ると、一方的に借主にとって不利な内容になっています。内容を変えてもらえるよう交渉したほうがよいでしょうか?
A.契約というのは、本来、対等平等な2者の間において、一方からの「申し込み」と他方の「承諾」によって成立します。これは、「諾成契約」と呼ばれており、口頭だけでも成立します。
契約というのは、本来、対等平等な2者の間において、一方からの「申し込み」と他方の「承諾」によって成立します。これは、「諾成契約」と呼ばれており、口頭だけでも成立します。
例えば、何かを買いにお店に行った場合を想定して考えるとよく分かると思います。
客 「これをください(申し込み)」
店 「ありがとうございます(承諾)」
このように日本の社会自体も、対等平等を前提としていますから、契約に関しても、「契約自由の原則」(私的自治の原則)というものがあり、人身売買や殺人依頼など、犯罪や公序良俗に反するような契約は無効ですが、それ以外は、原則として、自由に契約することができるのです。
「自由に契約する」というのは、契約内容も自由ですし、誰と契約しようが、逆に契約を拒否すること自体も自由なのです。さらに、契約の形式も自由なので、文書でも口頭でもかまわないのです。
民法自体も、「契約自由の原則」を前提としつつ、契約内容を取り決めなかった場合のルールを規定しているのです。これは賃貸借契約も同様で、本来は、家主も借主も対等平等な私人間で契約すべきです。
裁判にすれば勝つことも可能だけれど…
しかし、実際には、対等平等どころではなく、立場の強い家主が一方的に定めた契約内容を、立場の弱い借主が承諾するかどうかにかかっているわけです。
ということは、単純に考えれば、借主に一方的に不利な規定だからと改定を求めても、家主が認めければ、結局は契約そのものが成立しないのです。言い換えれば、家主には、「契約しない」という権利があるわけで、借主が家主に「契約せよ」と請求すること自体できません。
こうした“立場の強い家主”と“立場に弱い借主”という状況を背景として、民法だけでは借主が一方的に不利であるとして、借地借家法(旧借地法、旧借家法)が誕生しました。
借地借家法では、「強行規定」というものを設け、一部の規定については、「契約書にどのような記載があっても、借地借家法の強行規定に反するもので、借主に一方的に不利な条項は無効である」としているのです。
また、2001年4月には、消費者契約法というものもできました。この法律では、「消費者の利益を一方的に奪う契約条項は無効である」としており、賃貸借契約書にどのように記載されていても、消費者契約法に違反するとされた場合には、借主は従う必要がなく、裁判しても勝訴する可能性が非常に高くなってきています。
法律があっても立場の強い家主とは
相談内容を見ると、「借主に一方的に不利……」ということですが、具体的な記載条項を確認する必要があります。
その条項が、借地借家法の強行規定や消費者契約法に違反すると認められる場合には、そのまま契約しても、条項としては認められません。
ただ、将来のトラブル予防のために、家主に「法律上認められないと思うので、削除してもらえないか」申し出ることもできます。ただし、言い方には気を付けないと、家主が契約そのものを拒否してくる可能性があります。
一方、上記の規定・法律に違反していない条項については、借主としては、認めなければ、契約できない可能性が強くなります。
一般的な傾向として、空室が出てもすぐに入居者が見つかるような条件のよい物件の家主は強気です。こうした物件では借主から「不利な条項を削除してくれ」と申し出ても、「無理に契約してもらわなくて結構。ほかにいくらでも借りたいという人がいるから」という答えが返ってくるでしょう。
従って、「借主に一方的に不利な条項がある」場合、「不利を承知でも契約したい」のか、「納得できなければ契約しない」のかをはっきりさせたうえで、家主(仲介業者)との交渉に臨まなければなりません。
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この記事を書いた人
NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事
1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。