中途解約、原状回復――退去時の家主からの要求にどう対処するか
大谷 昭二
2021/04/21
イメージ/©flynt・123RF
いま住んでいる家や部屋から住み替える際、快く応じてくれる家主がいる一方で、あまりいい顔をしない家主もいます。退去時に思わぬ要求やトラブルが起きることもあるようです。そんな退去時のトラブルの質問にお答えします。
「中途解約だから」と契約期間すべての家賃を払えといわれた
Q.契約期間の途中で退去を申し入れると、家主からは「契約期間中の途中解約を認めない」と契約書を盾に、契約終了までの家賃の全額を支払うようにといわれました。払わなくてはいけないのでしょうか。
A.契約期間を定めている契約(通常の契約)の場合、民法第618条の「当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタルモ其一方又ハ各自カ其期間内ニ解約ヲ為ス権利ヲ留保シタルトキハ前条ノ規定ヲ準用ス」という規定が適用されます。この点については、常識的な判断とは非常に異なっています。
つまり、契約書に「途中解約条項」がなければ、途中解約そのものが認められません。
このため契約書に「途中解約条項」がないと、いかなる理由があっても、契約期間が終わるまで家賃を支払わなければならないということになります。よって、2001年4月以降の契約については、消費者契約法の「消費者の利益を一方的に害する条項は無効である」に該当すると考えられるので、「途中解約条項」がない場合でも、必ずしも、契約期間終了までの家賃の支払いを行う必要はありません。
判例においても社会通念上、常識の範囲を超える金額の支払いについては免除する傾向にあります。
ですので、ご相談の件の契約が01年以降であれば、支払う必要はありません。なお、契約期間を定めない契約(法定更新した契約も含みます)の場合は、民法第617条の規定により、通知後3カ月で解約することができます。
「現状回復するから」と契約満了日前に退去してくれといわれた
Q.契約がもうすぐ終了するのですが、家主から、「原状回復をしてから明け渡してもらう必要があるので、契約終了日の1週間前には退去してくれ」といわれました。
契約書には、そのような記載がありますが、契約期間中であっても、家主の言うように退去しなければならないのでしょうか。
A.「原状回復義務」というものが、いつ発生するのかを考えれば、家主の主張が間違っていることは明らかです。
時系列からいえば、「契約期間終了」→「物件明け渡し義務発生」=「原状回復義務発生」となります。
つまり、原状回復義務は、契約期間が終了しなければ、そもそも発生しない義務なのです。借主は契約期間中、その物件から収益を得ているわけですから、契約期間中に原状回復期間を含めるのなら、その期間の家賃を返還すべきです。
従って、「契約期間に原状回復期間を含める」こと自体が不当です。このような契約内容自体、不当な契約内容であり、無効といえるでしょう。
たとえ、契約書にそうした規定があっても、01年4月以降の契約では、消費者契約法によって、「消費者の利益を一方的に害する条項」としても無効となります。ですので、契約期間中は退去する義務がありませんし、家主の主張に従って退去したとしても、その期間中の家賃は支払う必要はありません。
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この記事を書いた人
NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事
1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。