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相続法改正シリーズ #3 実家の不動産相続に大きな影響を与える可能性――「おしどり贈与」(1/2ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/09/22

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イメージ/©️ twinsterphoto・123RF

ずっと前からあった制度

通称「おしどり贈与」は、正式名称を「贈与税の配偶者控除」といい、ずっと以前からあった制度ではある(控除額上限が2000万円となったのは昭和63年の税制改正以降)。

国税庁のホームページを引用して簡潔に説明すると、「婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例」ということになる。

ところが、2018年7月6日成立した民法の一部(相続法)改正により、おしどり贈与が、がぜん注目され、週刊誌でもたびたび特集されて話題になった。本稿の「相続法改正シリーズ」の最後に、「おしどり贈与」の何が改正されたのか、それが与える影響などを押さえておきたい。

相続税対策の王道といわれる「生前贈与」

財産がたくさんある家では、もしものときに相続税が多額になる可能性があり、生前贈与を行うことで相続財産を減らし、その結果として相続税を減らそうとする場合がある。もちろん、徴税当局もこのような「相続税逃れ」には対策をとっている。

贈与税率はもともと相続税率よりも高いので、多額の贈与は得策ではないのだが、相続税を少しでも減らしたいと考えている家では、長い年月をかけて非課税枠を使った贈与を計画的に行っていたりするものだ。

なお「相続発生前3年以内の贈与」については、相続税の課税対象財産に加算して(これを「持ち戻し」という)相続税を計算することになっていることや、贈与時に支払った贈与税は、相続税から控除され二重課税にはならないことなどはご存じの方も多いと思う。

生前贈与は「相続税対策」のなかでも特に重要とされてきたのだが、特におしどり贈与は、2000万円も非課税で贈与できるのだから、おしどり夫婦が資産家であればぜひとも検討したくなるだろう。生前に贈与すれば相続発生時の相続財産が減るのだから、当然相続税も減る。ましてや相続税法上はおしどり贈与分は遺産総額に持ち戻して相続税の計算をしなくてよいというメリットがあるのだから尚更だ。

だが、「相続税法上は」という前置きをしたのは、実は、民法上では「特別受益(=遺産の前渡しとしても、もらった分を相続財産に加えて=戻し入れて、相続財産総額を計算したうえで、遺産分割をすること」として扱われる。

例示すると、遺産が実家(2000万円)、預貯金1000万円とした場合に、生前に夫が妻に実家をおしどり贈与していたとしても、相続人が配偶者(妻)と子どもの場合に、残った預貯金1000万円の1/2が法定相続分となるのではなく、遺産総額は「実家(2000万円)+預貯金(1000万円)=3000万円」となるのである。

民法改正前、子どもとしては、

「法定相続分は1500万円だから1000万円の預貯金の半分500万円では足りない。お袋は2000万円分の家をもらっているからもらいすぎだ。あと1000万円ほしい」

と言える立場にあったのだ。

これでは、せっかく非課税で「おしどり贈与」していたのに、泥沼の相続争いになる場合もあった。

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この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

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