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まちと住まいの空間 第25回 「ブラタモリ的」東京街歩き②――テレビを観ているだけではわからない坂道の愉しみ方(3/3ページ)

岡本哲志岡本哲志

2020/06/27

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情緒と由緒を感じるのも坂道の愉しみ方の1つ――「綱坂」「暗闇坂」(東京都港区)

第5回放送の「三田・麻布」編では、坂道ファンにとってメジャーな「綱坂」を上るシーンが出てくる。台地に上がるこの坂は、左側が三井俱楽部、右側がイタリア大使館となる。江戸時代の大名屋敷の広大な土地が近代、現代と維持され続けた。


綱坂(三田・麻布、撮影した時は三井俱楽部の塀が大規模工事の最中だった)

綱坂は、上りはじめるあたりが少し湾曲するだけでほぼ真っ直ぐ上っていく。『タモリのTOKYO――』では「湾曲」の評価は3つ星と普通。胸突坂と比べ星一つの差だが、少し高い評価だ。「湾曲」の評価に関して、どちらかといえば胸突坂のほうに私は軍配をあげたい。

その理由は綱坂を上がり切った台地上、道の北側には、大名屋敷の間を抜ける綱坂と全く趣を異にする特異な坂に出会えるからである。江戸時代は、一部寺町となるが、全体として大名屋敷が占めていた。その点は南側と比べ大きな違いがなかった。明治以降になると、北側は再開発により現代風に言えば密集市街地となる。「三田・麻布」編では寺院の墓地を抜け、谷にある密集市街地に下る。次に谷から、休業して久しい立派な銭湯脇にある階段状の坂を上がっていく。


銭湯の脇から上がる階段状の坂(三田・麻布)

「一人で楽しく高低差を体感させてよ」と言いたげな、ノリノリのタモリさんがいる。「三田・麻布」編の後半は「ガマ伝説」に話題ががらりと変わる。十番稲荷神社からガマ伝説の場所探しをはじめていき、終着点の「ガマ池」に。ここに至る物語の途中に「暗闇坂」を上るシーンが映し出された。


暗闇坂(三田・麻布)

2007年4月号『東京人』の坂道特集でタモリさんが登場している。ちなみに、私はタモリさんの直ぐ後に書いている。この特集記事の「タモリの東京坂道ベスト12」では、胸突坂と綱坂がランクイン。一方、暗闇坂は入っていない。『タモリのTOKYO――』では、4つの評価基準の星を合計すると、3つの坂の総合点はいずれも同じ星数であった。「勾配」、「湾曲」では暗闇坂が他の2つの坂を上回る。ただ「由緒」が3つ星のために、絞り込む時に落とされたのだろうか。その時の気分で左右されるわずかな違いであろうと思う。どちらかと言えば、タモリさんは「勾配」「湾曲」よりも、「江戸情緒」「由緒」を重んじる傾向にあるようだ。

十番稲荷神社とガマ池を結ぶと、歩いていくライン上に暗闇坂がごく自然に位置する。しかし、「ガマ伝説」の物語の流れからは、場面の切り替えに暗闇坂を単に挟んだだけとも思えてくる。「坂道」を脈略もなく挟むことは、たとえば民放の魅力的なCMなのかとも。「ブラタモリ」ではそのような効果をも意図しているようだ。

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「ブラタモリ的」東京街歩き②――テレビを観ているだけではわからない坂道の愉しみ方
「ブラタモリ的」東京街歩き③――高低差、崖、坂の愉しみ方:赤坂・六本木編
「ブラタモリ的」東京街歩き④――坂の「キワ」を歩く「本郷台地」
「ブラタモリ的」東京街歩き⑤――本郷台地を削った川の痕跡を歩く
「ブラタモリ的」東京街歩き⑥――新しい街歩きの楽しさを発見できる銀座~丸の内

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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