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まちと住まいの空間 第17回【ブラタモリ/白金編その3】

白金の高級感が維持できなくなりつつある時代の変化(3/4ページ)

岡本哲志岡本哲志

2019/12/30

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名も無き坂で二人のやる気の息づかいを感じる


写真4、タモリさんが好きな三光坂 写真5、名も無き坂道

タモリさんは高低差ファンであり、色々な坂をよく訪れているようだ。2010年3月11日に放送された『ブラタモリ』の六本木編では、我善坊谷(がぜんぼうだに)にある江戸時代の旧組屋敷を歩いた。再開発が進行する場所である。そのとき「あっ! ここも空家になったか」と、タモリさんはロケそっちのけで、リサーチに意識が傾いていた。その時、「タモリさん、ずいぶんフットワークいいな」と関心したものだ。

白金編では、自動車で三光坂を上った(写真4)。完全にタモリさんの表情がゆるむ。そこで気付いたことがいくつかあった。タモリさんは多くの人たちがまだ眠っている早朝の時間帯に坂道を楽しんでいること、旧服部金太郎邸の脇を下る魅力的な坂道を知らなかったことなど(写真5)。タモリさんが徒歩で坂道を楽しんでいるのであれば、絶対に見逃すはずのない名も無き坂道を「初めてだ」と言っていた。

超有名人が徒歩で街歩きを楽しむなどあり得ない。しごく当然のことだが、今まで気にもしていていなかった。推測するに、車移動で坂道を楽しんでいたために、車の通れない魅力的な坂道を知らないと確信する。タモリさんと林田アナウンサーとロケをしながら、このようなことをあれこれと妄想していた。エンディング前のクライマックスとして名も無き坂道を下りた。実は、放送ではこの坂道を上るシーンだけが放映された。

しかし、当初は下って行くシーンを撮影して終わる予定だった。下りの時に、タモリさんは初めての坂道ということもあり、一人で楽しんでいるようで無口だった。本当に楽しければ、無口になるのは必然。加えて、林田アナウンサーもさらに寡黙に下りる。この雰囲気を放送で伝えるのは難しい。

二人がそれぞれに坂の魅力を感じているのが伝わってきた。そこで、坂を下り終わるころに「今度は上ってみましょうか」と軽い気持ちで声をかけた。「よしゃ」という感じでしょうか、二人が多弁になって坂を上がり始める。この坂を二人はよほど気に入ったようだ。

林田アナウンサーも実に生き生きとした言葉が出てきた。私としては、二人が寡黙に下って行くシーンも捨てがたい。それはともかく、林田アナウンサーの「まだ早い、押し戻されている気がする」と語ったシーンは、スタッフ一同が安堵したのではないか。このことで「高台」と「治安」が一体のものとなった。

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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