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空間と心のディペンデンシー

「最先端」だからこそ、填まる陥穽(1/3ページ)

遠山 高史遠山 高史

2019/12/07

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あるIT信奉者医師の自慢話

いまやITだの、ICTだの言葉を耳にしない日はない。

K医師は、某総合病院の診療部長である。彼は、若手の部下やナース達から「最先端」というあだ名で呼ばれていた。実際、K医師は最新のITなるものが大好きで、電子カルテの導入にも積極的だったし、その当時少数派だったスマートフォンもいち早く手に入れては、得意げに部下たちに披露した。

一度や二度であれば、良かったのだが、このアプリが良いとか、こちらの機種のどこそこが良いなどと、毎日誰かしら捕まえては自慢交じりに演説したので、部下たちは閉口した。こう毎回だと、お世辞もそうそう出てこなくなるからである。しばらくして「最先端」には多分に皮肉が含まれることになった。

K医師は「最先端」のシステムを備えたマンションに住んでいて、これもまた、自慢の種だった。

一軒家は、手入れが面倒だ。セキュリティもよろしくない。そこへ行くと、ウチは管理会社が面倒ごとはやってくれるし、最新のシステムが入っていて、セキュリティも安心だ……というようなことを、口癖のように話す。自慢をするほうは気分が良いだろうが、されるほうは面白くない。マンションに罪はないが、毎度毎度「ガチャガチャする鍵など危なくて仕方がない」などことあるごとに言われると、流石にムッとするというものだ。

「最先端」の彼からすると、私ような人間は原始人というわけで、会合などで顔を合わせるたびに、電子カルテの利便性や、パソコンのセキュリティ、スマートフォンの扱い方など、一通りご教授くださるわけだが、こちらとしては大きなお世話である。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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