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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#10 東京にも「街間格差」の時代が来る(4/4ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2019/07/01

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これからは「街の質」を選ぶ時代

都内でも駅からは遠くとも意外と緑などの自然環境が豊かな住宅地はたくさんある。とても都内とは思えないような静かな住宅地もある。必ずしも湾岸タワーマンションに住んで、無理に着飾った生活を送らずとも都内にはすでに良い街がたくさんあるのだ。

デベロッパーが謳う新築マンションのポエムのような宣伝文句だけに惑わされずに、じっくり街選び、住宅選びができるようになるのがこれからの東京だ。

こうした住宅選びの環境の変化は、これまでのなんでも「東京はいいね」といったステレオタイプな価値観にも大きな変化を生じさせるだろう。人々が住宅選び以上に街を選ぶようになるからだ。同じ行政区にあっても、街の質を選ぶ時代になるのだ。

夫婦が街の中にある保育所に子供を預け、街の中にあるコワーキング施設で夫婦会社は違っても、一緒に働き、先に終わったほうが子供を迎えに行き、買い物をする。街で遊び、街を楽しみ、街で寛ぐ。通勤がなくなるということは自分たちが住む「街」という生活ステージの選択が重要となるのだ。

世田谷区だから「勝ち組」だとか、足立区だから「微妙」とかいう価値観は希薄化し、街のブランドも変わってくるだろう。つまり現代人が必要とする機能を備えた街が新たなブランド街としての頭角を現す時代になるのだ。

都内にあっても街間競争に敗れた街は、空き家が増え、地価は大幅に下がるだろう。駅前というアドバンテージだけでは人を集められなくなる街も出現することだろう。そしてこうした時代の到来は、人々の住宅環境に対する意識を高め、街の環境をよくするためのコミュニティの醸成に尽力する地域社会を作り出すことにつながるはずだ。思いもよらぬ街に人気が集まることも考えられる。ここに未来の東京の顔が見えてくる。

そうした意味ではこれから住宅を選ぶことになる若い東京人は幸せだ。これまで人生で稼ぐカネの多くを家という「ねぐら」につぎ込まざるを得えなかったものが、自分を磨く別のものにも使えるようになるのだ。きっとそのとき東京に住む人々の生活はもっと豊かなものになるはずだ。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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