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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#10 東京にも「街間格差」の時代が来る(3/4ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2019/07/01

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相続ラッシュによる物件の大量供給

これから東京都内では相続ラッシュが起こる。そして意外と多い生産緑地の一部が賃貸や売却といった形でマーケットに拠出されてくる。いっぽうで東京の人口増加ペースは鈍り、2025年を境に減少に転じる。人が集まらなくなることはそれだけ住宅に対する需要が減退するということに直結する。

もちろん住宅は人口だけで決まるものではない。これまでの日本は人口の増加ペースが鈍っても、世帯数は増え続けてきた。ライフスタイルが変化し核家族や単身世帯が増えた結果、日本の世帯数は増え続け5340万世帯(2015年国勢調査)になっている。しかし、国立社会保障・人口問題研究所の推定では2023年の5419万世帯を境に日本の世帯数は減少に向かうとされる。

これからの日本は高齢者の単身世帯は増加するが、高齢者の多くはすでに住宅を所有しているケースがほとんどで新たに住宅を買うあるいは借りる層ではない。そして若者人口が減少するということはやはり住宅に対する実需が減らざるを得ないことを意味する。「供給が増えて、需要が減る」ということは、価格は下がる。経済学の基本中の基本である。

いっぽうで都内の不動産価格が下がるということは住宅を選ぶ側から見れば朗報だ。賃貸でも購入でも都内の不動産は選り取り見取りになる。つまり都内の不動産は「借手市場」「買手市場」に転換するのだ。

都内での住宅選びの自由度が高まるということは、都内における住宅選びの審美眼が上がることを意味する。今まではとにかく交通利便性だけを重視して会社にアクセスしやすい住宅を選んできた人々が、落ち着いて都内に「住む」ということを様々な角度から「考える」ようになるだろう。

中古住宅や土地が大量にマーケットに出てくれば、これまで新築マンション広告を、目を皿のようにして眺めていた顧客が、立地の良い暮らしやすい街を選択するようになるだろう。これまでは「会社ファースト」で住宅選びを行ってきたのが、テレワークが主流となり必ずしも毎日朝9時から夕方5時まで会社にいなくてもよくなれば、通勤という概念から離れ、一日のうち長い時間を過ごす、自分が住む街の魅力度を精査するようになるだろう。

こうした動きはこれまでの鉄道一本やりだった交通手段に対する考え方をおおいに変える可能性を秘めている。駅から徒歩何分という選択肢ではなく、自分たちの住む街の環境や機能にも目を向けるきっかけになるのである。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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