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体験談から悟る

介護関係者の言葉を鵜呑みにするな(3/3ページ)

鬼塚眞子鬼塚眞子

2019/03/20

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母には折に触れ、施設の入居希望や終活のことは聞いていたが、「きちんと
している」と少し怒ったように答えるのが常だった。
だが、そうも言っていられない状況になった。母も一人でいることに心細さを訴えるようになった。

Aさんは、母親の資産を知らされて愕然とした。 母親の資産は年金が毎月換算すると10万円、貯金残高は800万円しかなかった。

首都圏に住むAさんと弟は、実家に通う大変さや交通費を思うと、自分たちの近くに呼び寄せようと思っていた。だが、首都圏では平均的な有料介護施設の費用は入居一時金は300万円、1ヶ月の費用は20万円~25万円、入居一時金がゼロなら25万円~30万円というところだ。

仮に1ヵ月25万円×12=300万円となると、800万円なら約2年7ヶ月しかもたない。しかも、費用は施設代以外に雑費などもかかる。資金ショートは明かだった。

普通なら自宅を売却し、施設の費用に充てるものだが、それは泡と消えた。なぜなら、実家の周辺は急速にさびれ、店は1軒もなくなったばかりか、駅も無人駅になってしまった。7年前なら3,000万円以上の値段がついていた実家も、今では売買価格が600万というありさまだった。

冷静に考えれば分かるものだが、首都圏で毎日忙しくしているAさんは、不動産価格が下がることなど思い至らなかった。一方、Aさんの母が入居を希望する介護施設はこの10年ぐらい、大きな価格変動はなかった。


 
Aさんは、弟夫婦はともにバリバリ仕事をしているという理由で、介護の世話をできないと言ってきた。結局はAさんの自宅に母親を引き取り、専業主婦をしているAさんの妻が世話をすることになった。Aさんの妻は子供の手が離れたら、社会復帰をしたいとの夢を持っていた。だが、その夢は先送りになった。

また、母の介護費用は年金と貯金を取り崩す事で賄うと母や弟と取り決めたが、毎日の生活費はAさんが負担せざるをえないことは明らかだった。母も認知症状が少しずつ出始め、施設に入れたくても費用面で不可能となった今、夫婦間は次第に険悪になっていったのも当然だった。夜中に何度も起きるようになった母の世話はAさんが引き受けるようになり、心身ともに疲労のピークに達していった。追い詰められたAさんは、母と親子心中の言葉もかすめるようになったという。

「介護のことは介護関係者に聞けばと思っていたが、介護関係者は、介護の観点からしか答えないのだという事を、身をもって知った。親が介護認定を受ける時は、目の前のことに一杯で先のことなど考えられなかった。不動産価値が下がると親の介護生活に大きな影響を及ぼすことなど思いもよらなかった。ピーク時に自宅を売却していれば、ほかの選択肢も残されていたかもしれない。なぜあの時、介護関係者の言葉を鵜呑みにしたのか。介護関係者のことばは間違ってはいないが、介護関係者は不動産や法律の専門家でないことを再認識すべきだった」と悔しさをにじませる。

Aさんのような悲劇に巻き込まれないためにも、親が介護になったときには、介護関係者に聞くだけでなく、不動産や税務や法律やお金のことも並行してマイホーム問題も考え、包括的に介護生活を考えるのは、今後の新常識といえるだろう。

 

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この記事を書いた人

一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会理事長

アルバイトニュース・テレビぴあで編集者として勤務。出産を機に専業主婦に。10年間のブランクを経て、大手生保会社の営業職に転身し、その後、業界紙の記者を経て、2007年に保険ジャーナリスト、ファイナンシャルプランナー(FP)として独立。認知症の両親の遠距離介護を自ら体験し、介護とその後の相続は一体で考えるべきと、13年に一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会(R)を設立。新聞・雑誌での執筆やテレビのコメンテーター、また財団理事長として、講演、相談などで幅広く活躍している。 介護相続コンシェルジュ協会/http://www.ksc-egao.or.jp/

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