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増え続ける所有者不明土地、法律改正で止められるか(2/3ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/05/18

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②遺産分割協議の期間設定
遺産分割で揉めごとが多いということは誰もがよく聞く話だ。最高裁判所の司法統計によると、最近では財産が多い家よりも少ない家の方が、紛争(裁判沙汰)になることが多いという。不動産の場合は預金などの金銭みたいに簡単に分割できないため、売ることも貸すこともできない「負動産」の場合は遺産分割されないまま放置されてしまうケースが多い。空き家・所有者不明土地発生の主原因とされるゆえんだ。

また、売ったり貸したりできる財産的価値のある不動産の場合でも、遺産分割が「骨肉の争い」に発展してしまい、いつまでも相続人が決まらないままになることもある。その背景にあるのは相続人間の「不公平感」だ。

「兄貴だけ海外の大学への留学費用を1000万円以上も出してもらっていたじゃないか」

「妹は結婚式の費用を500万円だしてもらったが俺は自分で賄ったんだ」

「長男の俺が両親と同居して面倒を見た。特に親父の介護には俺の嫁がどれだけ苦労したことか」

などなど、争いの種は尽きない。両親ともに亡くなると、遺産分割の場で遠慮する相手がいなくなり噴出する。生前の財産の先渡しを「特別受益」といい、介護や自営業への貢献などを「寄与分」といって、前者は遺産に加え後者は遺産から差し引いて遺産分割をすることになる。争いの種があるような遺産分割協議は、簡単にはまとまらず長期化する傾向がある。

今回の民法改正では相続開始から10年が経過すると、特別受益や寄与分の主張が入れられず「原則として法定相続割合で分割」されることとなった。どうしても特別受益や寄与分を入れた遺産分割がしたい場合は、相続開始後10年以内に家庭裁判所に遺産分割の申し立てをすれば、10年経過後も特別受益や寄与分を入れた遺産分割が可能になる。法改正によって遺産分割の期間が設定され、「遺産分割されないまま放置される負動産」をなくそうという狙いだ。

③土地所有権の国庫帰属制度
民法239条第2項には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」という規定がある。要らない「負動産」を相続した場合は「所有者はいる」ので国庫に帰属させることはできない。従来より「土地の所有権を放棄することはできない」とされてきた。しかしながら、これ以上所有者不明土地が増えないようさまざまな検討が重ねられ、今回は民法改正による所有権放棄の制度新設ではなく、新たに「相続土地国庫帰属法」という新しい法律が作られたのだ。新法の第二条に制度の根本規定がある。

第二条 土地の所有者(相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる。

2 土地が数人の共有に属する場合には、前項の規定による承認の申請(以下「承認申請」という)は、共有者の全員が共同して行うときに限り、することができる。この場合においては、同項の規定にかかわらず、その有する共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者であっても、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した共有者と共同して、承認申請をすることができる。

実は、この承認要件が結構厳しい。要は「国が承認すれば国庫に帰属できる」ということだ。具体的には、以下のような場合は申請することすらできないとされている。

1)建物がある土地

2)担保権や使用収益権が設定されている土地

3)通路等他人の使用予定がある土地

4)土壌汚染対策法が規定する有害物質に汚染されている土地

5)境界が明らかでない土地、その他所有権等に争いがある土地

また、申請できる場合は各地の法務局で審査を受けることになるが、所定の審査手数料を支払わなければならない。

めでたく審査を経て承認される場合にも、「10年分の管理費相当額」を納めなければならない。承認されるハードルが高いだけではなく費用負担も重い。果たして新法による国庫帰属制度の利用が進むのか甚だ疑問に思われる。

次ページ ▶︎ | 利用できる新たな制度とは これから負動産を相続する人たちの心構え 

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この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

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