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荒んだ世の幕開けか? それともエキサイティングな時代の始まりか?

世紀末お騒がせ伝説 迷惑系タレントを支える「シグナライズ経済」(2/2ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2022/02/02

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評価は「高評価」のみではない

さて、そんな岡田氏の「評価経済社会」だが、提唱されてから10年が過ぎたいまはっきりと分かってきたことは、資産化できる評価は高評価のみではないということだ。すなわち、これには低評価も、悪評さえも含まれる。要は、ひとに好かれるも嫌われるも関係がなく、シグナライズさえ結果として成立すればよい。さきほどのへずまりゅう氏が、一昨年スーパーで購入前の魚の切り身に口を付けたことが事実上彼の名前を全国に知らしめたように、信用や信頼、リスペクトや感謝と同等に、社会からの嫌悪や軽蔑も、われわれは実は資産にできてしまう。

よって、このことはある種の深刻な影響を社会に及ぼすことになる。過去にコンビニエンスストアで黙々と真面目におでんをよそってくれていた幾万のアルバイターたちは、そのことによってわずかな時給以外は報酬を得られていないはずだ。一方、16年にその「コンビニおでん」をつついて炎上、逮捕された男は、その後も多数の人々の脳裏にシグナライズされていた。

そこで先日、当該「シグナライズ資産」を新たに運用してみたところ――ユーチューバーとしてデビューしたところ――たちまち3日間でチャンネル登録者数が1000人に達し、その後も数字は増え続けている。すなわちおそるべきことに、シグナライズ経済社会においては「地道に働き、人様に迷惑をかけない」かたちの地味な人間美は、賃金以外の経済的価値をほとんどもっていない。

ちなみに、岡田斗司夫氏の「評価経済社会」においては、評価は換金しやすいが(もしくはお金を無用のものともなし得るが)、お金で評価を買うのは難しいということで、金銭の価値に対して評価の価値は優位に置かれていた。

しかしながら、これをシグナライズ経済にくるんだうえで解釈すると、お金でシグナライズを買うことは十分に可能となる。方法は、高価な物を買って見せびらかしたり、求められるがまま他人にお金を配ったり、要は散財の醜態を見せればよい。

そこで、当該行為者は世間からの敬意は得られなくとも、蔑視や、多分に悪意の交じった羨望を集めることはできる。すなわちシグナライズを獲得できることになる。もっとも、この取引にあっては、たしかにレートは金銭側にとってあまりよくないとはいえるだろう。

トキやケンシロウ、モヒカンも大勢いる世紀末

一方で、シグナライズ経済には暗い見通しだけではない、光もある。そのことにはこの記事の途中でも触れたが、間違いなくシグナライズ経済社会においては人間ひとりひとりが自身のシグナライズを掘り起こし、育てることができる平等なチャンスがばらまかれている。

かつての時代のように、プロダクトと発信とを一手に握るメディアによって隷従を強いられることもなく、誰もがこの金鉱を差別なく自由に掘り進むことができる。実にエキサイティングな時代の幕開けといっていい。

しかしながら、その時代にあっては、尺度は社会的な「いい・悪い」にはおかれていない。ひとに感謝されてのシグナライズも、ひとに迷惑をかけてのシグナライズも、どちらも等しく資産として積み上がる。

これがシグナライズ経済社会においての厳然たる物差しだ。よって、おそらくは薬物事件を起こしたからこそ、その有名人の動画には事件の分だけチャンネル登録が上乗せされる。われわれは口惜しくともこの現実を重い覚悟とともに肝に銘じておく必要がある。


私たちは『北斗の拳』や『マッドマックス』と同じ社会に生きている? 写真はイメージ/©︎artfotodima・123RF

まとめよう。要は、トキやケンシロウもいるが、バイクで暴れ回るモヒカンの集団もそれ以上に跋扈し栄えている世界、それがシグナライズ経済社会だ。さらには、モヒカンを蔑視しながらも、モヒカンの火炎放射器であえなく焼かれてしまう人はもっと数多くいるというのがシグナライズ経済社会の実像となる。

シグナライズ経済社会の到来とは、つまりは世紀末が来たということだ。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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