熱海を襲ったのは盛り土だったのか――本当の「盛り土」をおさらい 盛り土は周りにたくさんある(2/2ページ)
朝倉 継道
2021/07/30
大規模な盛り土だけでも全国に5万カ所以上
では、まともな意味での盛り土は、通常どんなところに存在するのだろうか。それは、地域によっては、人々の身の周りそこかしこにまさに無数にある。
国土交通省が今年3月に公表したところによると、「大規模盛土造成地」に規定される大きなものだけでも、その数、全国5万950カ所にのぼっている。
都道府県別大規模盛土造成地数
出典/国土交通省「都道府県別大規模盛土造成地数」(R3.3末時点見込)
このうち、都道府県別の数を見ると、TOP5には神奈川県、福岡県、大阪府、愛知県、千葉県が入っている。ちなみに、東京都は1584カ所、熱海市のある静岡県は1103カ所となっている。
なお、これらについては、国交省の「ハザードマップポータルサイト・重ねるハザードマップ」で、位置等が公開されている。
そこで、上記1位の神奈川県を見てみると、川崎・横浜から三浦半島にかけての密集度のすごさに、誰もが思わず目を見張ることになるだろう。
神奈川エリアの大規模盛土造成地(緑の箇所)。「重ねるハザードマップ」にて【すべての情報から選択】→【土地の特徴・成り立ち】→【大規模盛土造成地】を選択すると確認することができる
ともあれ、盛り土による造成地は、上記、大規模盛土造成地に含まれない程度のものも加えるならば、繰り返すが、地域によっては人々の周りに数えきれないほど、存在するというわけだ。
ちなみに、今回の熱海での被害を受けて、国交省からは、全国の「盛土可能性箇所」のさらなる抽出を実施する旨、7月9日に発表がされている。シラミつぶしに盛り土の存在をつかまえにいくということで、われわれの足もとにあるリスクをさらに細かく把握できるかたちが、間もなく整備されるということのようだ。
盛り土の2つの基本リスク
最後になるが、こうした盛り土にリスクが指摘される理由を挙げておきたい。
ひとつは地震だ。さきほどもふれたとおり、地震によって斜面上の盛り土が崩壊する懸念、および実例も多いことのほか、地盤の液状化による被害もある。
その液状化で、とりわけ記憶に新しいのが、18年に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震での被害だ。このうち、もっとも甚大だった札幌市清田区里塚地区での被災においては、谷埋め型の盛り土造成地で、広範囲にわたって液状化が生じた。
報道によれば、112戸の住宅が、全壊、半壊、あるいは一部損壊させられる結果となっている。
加えて、もうひとつのリスクが、地震に遭わずとも、大雨のみで盛り土が崩れ出す可能性もあることだ。17年には、奈良県三郷町で、住宅地の盛り土にしみ込んだ大量の雨水が、水圧によって擁壁を内側から崩してしまう事故が起きている。
近年続くいわゆる気候変動により、豪雨災害が目に見えて深刻さを増すなか、盛り土造成地のデリケートな弱みを露わにする結果となっている。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。