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賃貸仲介会社社員が入居希望者に強制わいせつ 業界は昔と変わっていないのか?(2/2ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2021/06/08

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業界はバブルの昔と変わっていないのか?

今回の事件をうけて、多くの業界関係者がショックを受けている。それは、不動産仲介会社の従業員が、警察の捜査員に囲まれ、店から引き出されていくという情景が、まるで30年も前の悪しき世界のよみがえりのように映るからだ。

当時といえば、世の中は「バブル」末期の頃にあった。不動産業界の一部はかなり荒れた状態になっていて、賃貸仲介の窓口でも、店選びをうっかり間違えれば、客は大変なリスクに見舞われることが多々あった。

客だけではない。彼らと仕事で付き合う側も大変だったと言っておく。

賃貸情報誌の女性営業スタッフが悪質ないたずらをされた例もあれば、不正な行為を諫めた取引先の人間が、「殺す」と脅される例もあった。そんな店の裏口に回れば、覚せい剤の注射に使用した注射針が無数に散らばっているといったことも、いまでは考えられないが、現実に見られたことだ。そうしたなか、従業員による強制わいせつどころか、客が殺害される事件も発生したことがあった。

昔を知る人からは、「あなた方は変わっていなかったのか」と、呆れ顔で言われてしまうことを業界の人々はいまとても心配しているというわけだ。

30年ですっかり変わった賃貸不動産業界

それでも、事実をいえば、賃貸仲介業界は、悪しき問題も見られた過去からは目覚ましく変わっている。もっとも大きな変化は、彼らが、客である入居希望者の気持ちに寄り添うようになったことだ。

CS(顧客満足)を重視する意識が、この間大いに浸透した。そのため、窓口スタッフの言葉遣いからして、いまは過去とはまるで違っている。このことについては、荒々しい時代が過ぎ、人々が優しくおだやかになってきたこともあるが、賃貸管理会社が成長したことも要因として大きい。

管理会社がオーナーの、仲介会社が入居希望者側の、それぞれのベネフィットにより傾斜するポジショニングが生まれたことにより、仲介側における、いわゆる窓口レベルが上がったことも、大いに指摘できるポイントだろう。

そうした意味では、今回、重大な事件の容疑者を出してしまったエイブルも、業界の地位向上にあって果たした役割が大きかった1社だ。

「従業員は入室を控える」については、混乱の中、難しい条件を自らに課してしまったのかもしれないが、試行錯誤のよいきっかけにはなるだろう。

今回の「コロナ」対応で、貧困者へのサポートなど、総じて社会性の高まったところを見せた家賃債務保証業界。賃貸不動産経営管理士の国家資格化などによって、社会的責務が一段と増した賃貸管理業界。

これらとともに、賃貸仲介各社も、社会の幸福の底上げのために、より一層努力をかさねていってほしいものだ。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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