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「シナケレバナラナイ」ことがつくり出す「ディストピア」願望――心を解放させるために必要なこと(2/2ページ)

遠山 高史遠山 高史

2021/01/21

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フラストレーションを一気に開放したいという願望

とはいえ、牧歌的であった「その昔」に戻るには、人間は増えすぎたし、社会は複雑になり過ぎた。

物資は溢れ、飢え死にすることはめったになく、寒さ暑さを知らぬ環境を手に入れたはずなのに、人類の憂いは消えるどころか、増加する一方だ。しかも、その悩みの原因といえば膨大な「シナケレバナラナイ」ことで疲れ果てているせいが大きいと思えるが、もはやどうにもならぬところまで来てしまってはいないだろうか。

近年、フィクションの世界で、強大な悪役がやってきて、世界中を破壊するというストーリーが増えている。ビルを壊すくらいでは収まらず、都市が丸ごと消し飛ぶような派手な描写や、破壊されつくした後の、いわゆる「ディストピア」を舞台にしている作品も、数多い。

「シナケレバナラナイ」ことだらけの世の中に対するフラストレーションが吐き出されているのではないかと思う。人の心の内は、単純には説明できない。誰しもが、平和を望みつつ、この七面倒くさい世の中を滅茶苦茶にしたいという願望を抱えて生きている。

本当に滅茶苦茶になったら大変そうだから、皆、日々、何かを抑え込んで、なんとかやってきているが、いずれ「シナケレバナラナイ」ことで、息ができなくなる日が来るかもしれない。

その昔、師の一人が、決断を恐れて、あれこれと対策を練っては、悶々とする私を見かねて言った。

「予測できないことにおびえるのは、まったくバカバカしい。人生のロスだ。君が悩んでいる事柄は、宇宙から見れば、些細なことだと思うがね」

まことに至言であると思うが、もはや過去のことである。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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