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『孤狼の血 LEVEL2』/リアリティ重視の大人向けのエンターテイメントなやくざ映画(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2021/08/02

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クール、ワイルド、ダーティ、ハングリーといった形容詞を超越した男の面構えである。松坂の演技は素晴らしいが、彼はまずビジュアル面で最高の役作りを行っている。余談だが、無精ひげを生やし、煙草を咥えた松坂桃李の顔写真一枚のみで構成されている本作の第一弾ポスターは、映画ポスターとして近年最高の出来栄えと言えるだろう。

本作には、日岡の前に立ちはだかり、広島の秩序を乱す男が登場する。映画オリジナルのキャラクターである上林(鈴木亮平)だ。彼は先の抗争で「尾谷組」の一之瀬(江口洋介)に殺害された「五十子会」会長に忠義を尽くしている。出所したその足で、服役中に自分を目の敵にした刑務官の妹に会いに行き、その場で惨殺するというぶちキレた男だ。

桁外れの迫力と不気味さ。鈴木の好演により、上林は日本映画史に残る最高の悪役の一人として長く記憶されるに違いない。

本作は日岡と上林の対決を軸に展開し、アクションシーンも見事だが、見どころはむしろ濃密なドラマにある。秩序を乱す上林、暴走する組員、情勢を探るS<スパイ>、そして、日岡に忍び寄る監察官の影。前作から引き続き登板するメンバーと本作から加わった新メンバーを合わせ、多彩な俳優陣が物語を織りなしてゆく。

果たして日岡は、待ち受ける試練の数々を克服することができるのか。観客は手に汗握り、シネマスコープの大スクリーンを見つめることになる。

コンプライス重視の世の中であってもリアリティを描く

コンプライアンス重視の世の中となり、映画やテレビドラマの世界の登場人物は、すっかりお行儀良くなってしまった。煙草を吸うシーンはほとんどなく、道路に煙草を投げ捨てるなんてことは有り得ない。未成年の飲酒シーンはもちろんご法度。カーチェイスのシーンでも、ドライバーは必ずシートベルトを締めている。そうしなければ、良識派といわれる人々から抗議を受けるし、地上波テレビでの放送が難しくなるからだ。

「車内で煙草を吸っている人相の悪い男。長時間イライラしながら、じっとターゲットが現れるのを待っている。すると男の目の前を、ターゲットを乗せた車が高スピードで通りすぎてゆく。男は窓の外に煙草を投げ捨て、シートベルトもせず急発進する」

いまや、こういった“当たり前の”描写が許されないのである。

その点、本作の監督とプロデューサーは腹を括っている。人はコンプライアンスで動くのではない。感情の赴くままに動くものだ。

第一作はコンプライアンス無視の暴力描写が話題となったが、監督の白石和彌は「こういう時、人はこう動く」という人の感情に即した描写を丁寧に積み重ねているに過ぎない。その積み重ねがリアリティを生み、登場人物の怒りの感情が沸騰点に達した時、過激な暴力シーンが誕生するのである。白石和彌は稀代のエンターテイナーであるが、実はリアリティをとことん追求する映画作家なのだ。

映倫R15+指定(15歳未満は観覧禁止)の大人のエンターテインメントを、劇場の大スクリーンで堪能してほしい。

『孤狼の血 LEVEL2』
原作:『孤狼の血』シリーズ(角川文庫刊)
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
出演:松坂桃李/鈴木亮平/村上虹郎/西野七瀬/音尾琢真/早乙女太一/渋川清彦/毎熊克哉/筧美和子/青柳翔/斎藤工/中村梅雀/滝藤賢一/矢島健一/三宅弘城/宮崎美子/寺島進/宇梶剛士/かたせ梨乃/中村獅童/吉田鋼太郎
配給:東映
8月20日より公開
公式サイト:https://www.korou.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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