『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』/レジェンド俳優3人のちゃめっ気たっぷり、ゆるゆるコメディ(1/2ページ)
兵頭頼明
2021/06/02
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保険金詐欺をコメディに転化
本作『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』はロバート・デ・ニーロ、トミー・リー・ジョーンズ、モーガン・フリーマンという3人のアカデミー賞受賞スターの共演作。映画ファンに「これは見たい!」と思わせる豪華な組み合わせである。
舞台は1970年代の映画の都・ハリウッド。
マックス(ロバート・デ・ニーロ)はB級映画のプロデューサーで、ツキに見放されている。最新作も大コケで、ギャングのレジー(モーガン・フリーマン)から借りた金も返せない。かつて仕事を教えた後輩で、胡散臭いとはいえ第一線のプロデューサーに成りあがったジェームズ(エミール・ハーシュ)に借金を申し込みに行くが、ジェームズには思惑があり、話は平行線。
このままでは命が危ないマックスは、とんでもないアイデアを思いつく。映画を撮影する際は、不慮の事故に備えて必ず保険をかけておく。もし、危険なアクションシーンの撮影で事故が起これば、多額の保険金が入り借金は帳消し。それどころか、大儲けできるではないか。
マックスはデスクにしまい込んでいた最低のボツ脚本を引っ張り出し、老人ホームに入居していた往年のスター、デューク(トミー・リー・ジョーンズ)を口説き落としてカムバックさせ、デューク主演の西部劇の製作を開始する。ただし、マックスは映画を完成させるつもりがない。彼の真の目的は、映画を完成させないこと。そして、撮影中にデュークに死んでもらうことだ。
マックスは次々とデュークに危険なスタントをやらせるのだが、何故かこれがことごとく成功。撮影は順調に進んでゆく。マックスはどうすればよいのか――。
元ネタは、後に舞台ミュージカル化され、再映画化もされたメル・ブルックス監督・脚本作品『プロデューサーズ』(68)ということになろうか。
アカデミー賞脚本賞を受賞した同作はブロードウェイ、すなわち演劇界が舞台。主人公の演劇プロデューサーはスポンサーから出資金を募り、史上最低の芝居を上演した後すぐ打ち切りにすれば、実際の製作費以外すべて自分の儲けになると考えた。主人公の名はマックス。本作『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』は『プロデューサーズ』から主人公の名をそのまま拝借している。
『プロデューサーズ』のマックスもずる賢い奴だったが、『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』のマックスは自作の主演スターの死を望んでいるのだから、それ以上に悪辣だ。その部分がコメディとしてうまく笑いに転化されているのは、デュークが自殺願望を持ちながらも意外な活躍を見せてしまう演出が楽しいからである。
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。