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『ねばぎば 新世界』/浪花節で人情味あふれる勧善懲悪の娯楽作(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2021/07/03

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監督・脚本・プロデューサー上西雄大がみせた自身の幅の広さ

『ひとくず』は、生まれてからずっと虐待を受けてきた少女と、その家に空き巣に入った男の物語。この作品で上西が演じた主人公は、電気もガスも止められ、食べる物も与えられず置き去りにされた少女に、幼いころ虐待を受けていた自分の姿を重ね、彼女を救おうと動き出す。しかし、犯罪者である主人公が少女を救うために選んだ方法は、社会通念から逸脱していたというお話だ。

児童虐待をテーマにしてはいるが、社会派を気取ったお上品な作風ではなく、骨格は浪花節で、そこにリアルな描写と娯楽性が同居するという新しい感覚の作品であった。上西をはじめ主要キャストがほぼ無名というのも新鮮で、木下ほうか、飯島大介、田中要次らベテランのワンポイント出演が絶妙のスパイスとなっていた。

本作『ねばぎば 新世界』はいささかヘビーな味わいの前作『ひとくず』に比べて軽いタッチとなり、娯楽映画に徹した作りとなっている。アクションシーンも随所に取り入れられ、「浪速のロッキー」赤井英和ならではの見せ場も用意されている。

その一方で、浪花節の部分は前作よりも強調されており、人情味あふれる主人公と仲間たちが織り成す勧善懲悪の物語として実に分かりやすい。

本作は、上西雄大が自身の幅の広さを内外にアピールした作品と言えるだろう。『ひとくず』は映画ファンを唸らせる秀作であったが、上西がメジャーへの階段を昇ってゆくためには、純然たる娯楽作品も撮れるということを示す必要があったのだ。彼にとって『ねばぎば 新世界』の製作は必然であった。

一般大衆とうるさ型映画ファンの両方を唸らせる娯楽性と作家性、そして興行力を兼ね備えた作品の製作。上西雄大ならば、それができるはずだ。次回作にも期待したい。

ねばぎば 新世界
監督・脚本・プロデューサー:上西雄大
出演:赤井英和/上西雄大/田中要次/菅田俊/有森也実/小沢仁志/西岡德馬
配給:10ANTS 渋谷プロダクション 
2020/JAPAN/Stereo/DCP/108min
7月10日より公開
公式HP:http://nebagiba-shinsekai.com/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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