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『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』/魅了された理想のリーダー像「煉獄杏寿郎」の存在感(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2020/10/26

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ひとつは、1969年にアニメ化された手塚治虫の『どろろ』。戦国時代、48匹の妖怪から自分の身体を奪われた少年・百鬼丸が妖怪退治の旅をするというお話だ(2019年に設定が変えられ新たにカラーアニメ化された)。

1969年版では百鬼丸は妖怪に身体の48カ所を奪われているため、医者が不足部分を作り物で補ってくれている。眼球は義眼、腕は義手という具合で、彼が妖怪を一匹倒すたび、身体の一部が本物に入れ替わってゆく。あくまで幼い日々の記憶であり、テレビアニメ版と混同しているかもしれないが、例えば義眼が抜け落ちて本物の眼球と入れ替わるといった描写が、昭和40年代当時の子どもの目には極めてリアルに映り、とても怖かった。

もうひとつは、小池一雄(原作)と小島剛夕(画)のコンビによる劇画『子連れ狼』。

柳生烈堂率いる柳生一族から妻の命と職を奪われた元・公儀介錯人、拝一刀と息子・大五郎の復讐の旅を描いている。拝一刀は大五郎を連れて江戸を脱し、「子貸し腕貸しつかまつる」と書かれた幟を立てた乳母車を押しながら流浪の旅に出る。標的一人につき五百両という報酬を得る刺客を生業とし、請け負った仕事をこなしつつ、列堂の放った剣客と戦ってゆく。ハードな展開でありながら、その根底には親と子の絆がある。

拝一刀は父として一方的に子供を守るのではなく、時には突き放す。幼い大五郎も3歳にして自らの身を守る術(すべ)を身に着け、父の足手まといにならない生き方を選択している。その世界観と考え方には筋が通っており、武士の親子の絆の描き方にも一種独特のリアリティがあった。

『鬼滅の刃』は、上記二作の懐かしい記憶を蘇らせてくれた。鬼に立ち向かう炭治郎の姿は、妖怪を斬る百鬼丸の姿。禰豆子を背負い箱に入れて運ぶ炭治郎の姿は、大五郎を乳母車に乗せて運ぶ拝一刀の姿に重なった。

本作には鬼を倒す際の流血描写などハードでグロテスクなシーンが多いが、主題として描かれているのは家族愛である。キャラクターはみな魅力的であり、思いはまっすぐで揺るがない。その普遍性が人々を魅了するのであろう。

そしてもう一つ、今回のエピソードでは、煉獄杏寿郎の存在感が圧倒的だ。


鬼殺隊 柱/煉獄杏寿郎

彼は炭治郎たちの憧れの存在であり、彼らにとっての司令官、そして師匠とも言える存在となる。面倒見がよく、何事にも前向きに取り組み前進してゆく煉獄。テレビドラマ『半沢直樹』の主人公に理想のサラリーマン像と、自分もああいう風になれたら良いだろうな、なれないよなという空想上の理想像を見出した私たちは、本作の煉獄に理想のリーダー像と理想の上司像を見出すことになった。

本作が老若男女すべての層を魅了し、予想をはるかに超える大ヒットを記録した鍵は、この煉獄杏寿郎というキャラクターだったのではないか。本作の熱狂的なファンとは異なる立ち位置にいる門外漢の私は、漠然とそう考えている。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
脚本制作:ufotable
声の出演:花江夏樹(竈門炭治郎)/鬼頭明里(竈門禰豆子)/下野紘(我妻善逸)/松岡禎丞(嘴平伊之助)/日野聡(煉獄杏寿郎)/平川大輔(魘夢)
配給:東宝・アニプレックス
2020年10月16日より公開

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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