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相続法改正シリーズ #1 実家の不動産相続に大きな影響を与える可能性――「配偶者居住権」(3/4ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/07/21

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配偶者居住権は必ず得られるとは限らない

配偶者居住権は、年老いて連れ合いに先立たれた配偶者(家の所有権を持っているのが夫で、その家に同居してる妻という想定であるが、所有者が妻で残される方が夫という場合も同じく、残された方に配偶者居住権を得る道がある)が住む場所に困ることがないようにとできた制度だが、相続が発生した場合に自動的に保障されているものではない。

ほかの財産の相続と同じように、「遺言が残されていた」場合か、「遺産分割協議で決まった」結果として、残された配偶者が得られるものなのだ。したがって、「遺言に書かれていなかった」場合や「遺産分割協議がまとまらず紛争状態になった」場合には、配偶者居住権の保証はされていない。ではどうなるのか?


イメージ/©️takasuu・123RF

夫に先立たれた妻が、ほかの相続人との折り合いが悪くて遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の審判により、「ほかの所有者(相続人)の被る不利益を考慮してもなお配偶者の生活を維持する必要があると認められたときは、配偶者居住権を取得することができる」とされている。なので、相当な高齢者で引っ越しが困難であるような状況であれば、裁判所に認められる可能性が高いと言えるだろう。

だが、もし残された妻がまだ若くていくらでも引っ越し先を見つけられると判断された場合はどうだろうか? 審判が下りないことも十分に考えられる。そのようなときに、仮に遺言で妻以外の人間に「自宅を相続させる」と書かれていた場合、その自宅を相続した第三者から「あんたは出ていけ」と言われる場合もあるだろう。妻がすぐに出ていかなければならないとすると酷な話である。

今回の相続法改正では、そのような場合もカバーするような制度ができたのだ。これを「配偶者短期居住権」といって配偶者居住権とは区別している。

配偶者短期居住権とは、先に述べた配偶者居住権と違って、被相続人が亡くなってその家に住んでいた配偶者が何も権利がない状態であっても、すぐに追い出されることなく一定期間住む権利が保障されること。所有権を得た第三者から「あなたの配偶者短期居住権の消滅を請求します」と言われてから6カ月間は無償で使用することができる権利なのだ。

そして、被相続人に借金がたくさんみつかって、残された妻が相続放棄した場合にも、後日その家の所有権を取得した者は、配偶者短期居住権の消滅を請求された日から6カ月間は無償で使用することができる権利でもある。

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この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

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