ニッポンのサラリーマンへ、あえて二地域居住のススメ(2/2ページ)
馬場未織
2016/05/13
企業人こそ、多様な暮らしを!
わたしは個人的に、できれば企業に勤めている人や行政マンに、二地域居住を実践してもらいたいと考えています。なぜならば、二地域居住、多地域居住は、社会を立体的にとらえる目を養うのに最適な暮らし方だからです。
ひとつの環境にいれば、そのなかでの振る舞い方は熟達しますし、そのなかで何が起こってもすぐに対応できるというメリットがあります。それが信頼につながったり、自身の立場を強化する動きにつながったりもするでしょう。
でも、当たり前ですが、会社内だけが社会ではありません。「社内の理論がまったく通用しない社会」を傍らに持つことは、「副業を持たない」ことよりももっともっと大事なはずで、ひいては仕事が柔軟に力強く進むための知恵も備わるというメリットもある思います。
そのような考え方の人が上層部にいるラッキーな企業では、新人社員をローカル就職させるなど立体的な眼差しを養うプログラムを導入しているとか。社員に枷をはめて仕事に従事させたり、昇進というニンジンだけに集中させて走らせるような方法ではもう会社はもたない、という判断だと思います。
もうひとつ。
身軽な働き方をしている人たち、起業した人たちの間では、「企業に勤めているなんて」「起業して自分の人生を取り戻そう!」といいながら企業人を揶揄する向きがあるんじゃないかということは、わたしだけが感じていることではないでしょう。
でも、社会の基盤を支えているのは誰なんだろうと考えたとき、揶揄する前に、感謝の念が湧き起こってきませんか。
思ったことがすぐに実行できない立場の人がいます。身動きがとれない、重たい仕事をしている人がいます。それが本人の望むところではなくても、現状ではそれが人々の暮らしを支えているということもある。
そうして整えられた環境に大部分は乗っかって、わたしたちは生きています。
リスペクトこそあれ、「やめる勇気がない人たち」だなんて言えません。
…だからこそ、企業マインドを持つ人たちに、二地域居住を勧めたいと思うのです。むずかしいのは承知の助。でも、働き方や暮らし方の多様性を、企業を辞めることで獲得するのではなく、そのなかにいながらにして見出すことができたら、どんなに多くの人たちが広い世界にコミットできるでしょう。
もしこの動きが企業の弱体化につながるという懸念を持つ場合、その企業は何に依拠しているのかを改めて見直す必要があるはずです。
自立した個人が働く、自立した企業。二地域居住者の多い企業。
そんな会社が出現するまでにはまだまだ時間がかかりそうですが、国土交通省が「二地域居住者が1000万人を超える」と予想する(!)2030年ごろには、ひょっとしたら企業の体質自体がいまとはまったく違うものになっているかもしれません。
いま、「二地域居住やれないかな、やっちゃおうかな」と悶々としている企業勤めのあなたの「えいや!」が、そんな未来をつくります。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。