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マンダラ塗り絵に現れる人の内面

ユングによってはじめられた現代社会での「マンダラ」の活用(2/2ページ)

正木 晃正木 晃

2020/03/08

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集中力と持続力――マンダラ塗り絵の効能

そこで、マンダラにとってもっとも重要な、幾何学的な構成がもたらす強い対称性をたもったまま、宗教をイメージさせがちな要素、具体的にいえば仏菩薩や神々のすがたをできるだけ消去し、動植物や風景、もしくは抽象的なパターンの繰り返しなど、誰に目にも、おもわず塗りたくなるようなデザインに変換したのである。
そして、ものは試しとばかりに、創作したマンダラ塗り絵を、そのころ教鞭をとっていた大学の学生に塗らせてみた。なぜ、マンダラを塗らせることになったのかというと、いささかオフレコっぽい話だが、学習意欲にはなはだ欠ける学生が多かったゆえである。なんとかやる気にさせる方法はないかと悩んだあげく、ひょっとしたらマンダラ塗り絵がいけるのではないか、と試してみたのだ。

塗る人によって色の選び方、塗り方がまったく違う
 

これが大成功だった。まさに目の色を変えてマンダラを塗り、以来、学習意欲が俄然、高まった。理由はよくわからないが、集中力と持続力が向上したことは疑いようがなかった。
いずれにしても、私の試みは、もともと精神を病む人々を対象としていたマンダラ塗り絵を、健常な人々に塗らせたという点で、少なくとも日本では画期的だったようだ。ドイツなどでは、主に幼児教育の一環として、簡単なマンダラ塗り絵を塗らせることが試みられてきたが、そういうことは日本ではまずなかったからである。



自身の学術的な研究が、学術の分野を超えて、現実の社会に役立つという事態は、残念ながら、稀にしか起こりえない。その意味で、私のマンダラ研究はじつに幸運だったといっていい。そんなこんなで、これまで30年ほどもマンダラ塗り絵にたずさわってきた。そのせいかどうか、最近では企業関係の方々から、「うちの部署で塗らせてみたのですが、個々人の性格や人格、もしくは特定の課題に対する向き不向きがわかりますか?」という依頼を受けることもある。
むろん対象は私にすれば、見ず知らずの方々である。「では、あくまで参考までに」とお断りした上で見解を記すと、恐ろしいほど当たっているそうである。

 
 
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この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

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