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空間と心のディペンデンシー

求める理想によって、こころが病む(2/3ページ)

遠山 高史遠山 高史

2020/01/31

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「挫折知らず」が一番怖い

そもそもなぜ別れたのかと言えば、原因はK子さんのわがままだ。K子さんはスレンダーで、目の大きい美人である。彼女のどこか甘えたような口調と、厚い唇は、男性にはたまらなく魅力的に写る。実際、彼女は今回のことがあるまでは、フラれるより、フル側で、別れた後も、付き合う男に困ったことはなかった。それだけに、相手に対する理想は高く、要求も大きくなる。

さらに、K子さんが幼いころ、両親が離婚し、ずっとアパート住まいだったため、落ち着いた家庭に強いあこがれがあった。なんとしても一戸建てを手に入れて、子どもを作り、家族を作りたかった。仕事も好きで夢中で頑張ってきたが、気がつけば40歳目前である。こういった事がK子さんを焦らせ、まだまだ駆け出しの彼を責める結果になった。

プロポーズはちゃんとしてほしい、結婚式はどこでやろう、いつ結婚してくれるのか、子どもは絶対に二人は欲しい、家は庭付きで、日当たりの良いリビングと、広いベランダがほしい、庭にはテーブルとベンチを置いて、バーベキューをしよう、等々。

そんなある日、K子さんは、自分より給料が安いことについて、彼をなじった。優しかった彼の顔が硬直したのを見て、取り返しのつかないことを言ったと思ったが、もう遅かった。

結局K子さんは、しばらくして、会社を辞めた。遅刻は治らなかったし、親会社からの電話を恐れて電話を取ることもできないのでは、仕事にならない。会社もこれ以上はかばいきれなかった。元彼は、K子さんが辞めた後、すぐに別の女性と結婚した。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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