BOOK Review――この1冊 『名画で学ぶ 経済の世界史』(2/2ページ)
BOOK Review 担当編集
2020/09/23
紹介される絵画のうち、何点かはカラーで掲載されている。解説を読んだあとで眺めてみると、なんだか心に染み入るものがあって、見入ってしまう。
例えば、19世紀フランスで活躍した画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールの「舟遊びをする人々の昼食」には、川辺で食事を楽しむ若い男女が描かれており、明るくみずみずしい印象だ。
当時のフランス芸術界をとりまく保守的な慣習に反発し、「自分の描きたいものを描く」と決めた若き画家たちが立ち上げた「印象派」の一員だったルノワール。しかし、すぐには評価を得られず、経済的にも苦しい時が続いた。彼と志を同じくする画家たちの多くもまた、貧しい生活をしていた。
彼らは週末になると、当時のパリに数多くいた、繊維産業の下働きをする若い女性たちと一緒に、郊外へ出かけたという。「舟遊びをする人々の昼食」で描かれているのはまさに、日々の憂鬱や気の進まない労働から解き放たれた青年たちが、しばし羽を伸ばす健やかなひと時だった。タフな現実に立ち向かいながらもへこたれない、若さならではの爽やかさ、明るさがまぶしい。
人生を充実させるエッセンスとしての名画の魅力を発見できること、間違いなしの一冊だ。読書の秋、芸術の秋のお供に、ぜひ読んでみてはいかがか。
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ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集
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