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BOOK Review――この1冊 『しょぼい喫茶店の本』 池田達也 著(2/2ページ)

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時を同じくして、店舗起業に踏み出すきっかけとなるブログと出会う。自由度の高い空間が好きだったから、何となく喫茶店を選ぶ。ブログやTwitterをこまめに更新し、そこで見ず知らずの人と縁をつなぎ、100万円の出資をしてもらう。さらに、東京で看護師をしていたものの、激務からうつ病になって鹿児島の実家に戻っていた女性・おりんさんがブログを読んで、喫茶店で働かせてほしいと上京してくる。足りない物は、amazonのほしい物リストやクラウドファンディングでフォロワーにサポートしてもらった。

そして、ついに2018年3月1日「しょぼい喫茶店」がOPEN。メニューはキーマカレーとチーズケーキとコーヒーのみ。それでもTwitterを見た人たちが訪れる。途切れることなく取材が入り、リツイートされ、シェアされ、ネットニュースに掲載され、バズった。だが、バズりすぎた反動がやってくる……。

「しょぼい喫茶店」の成功は奇跡に満ちている。でも、じつは決して奇跡でないことは本書を読めばわかる。池田氏は作戦を練り、正直に実情を吐露し、多くのフォロワーを味方につけた。喫茶店OPENにこぎ着けたのは彼の誠実さゆえだったとしか思えない。

これはある意味、現代のシンデレラストーリーである。SNSを通じて見知らぬ人同士が繋がることに不安も感じるが、その一方でSNSを活用することで、出会うことのない人たちが出会い、可能性が広がっていくのも現実だ。ブログやツイッターに記す文章には人間性が現れる。それを応援したいと思う人々が集う世の中は捨てたものではない。

最終章には飲食店の始め方や、資格許可申請の取得方法などが記されている。喫茶店やカフェを開業したいという人には参考になるかもしれない。が、本書は開業のためのハウツー本ではない。人生に迷っていた青年が一歩踏み出し、自分の幸せの形を見つける成長譚である。

開業してまだ1年ちょっとの「しょぼい喫茶店」。だが、刻々と変化を遂げている。まず、メニューは格段に増えたようだ。そして、池田氏とおりんさんは結婚して夫婦になった。「しょぼい喫茶店」には、これから何度も試練が訪れるだろう。なぜなら、まだOPENして1年ちょっとなのだから。でも、きっと池田氏は、彼らのこれからについても書き綴ってくれるだろう。続編が今から愉しみだ。


『しょぼい喫茶店の本』
池田達也著
百万年書房刊
1400円(本体価格)+税

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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