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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

不動産情報革命の兆しか!? 不動産流通の在り方を根こそぎひっくり返すときがやってきた(2/3ページ)

南村 忠敬南村 忠敬

2022/02/18

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実はこのデータベース一本化は、これまで統一的なフォーマットが整備されなかった物件情報の利用範囲が格段に広がることを意味する、とても重要なポイントのである。


REINS(レインズ)のホームページ。不動産業界の物件情報データベースが一つに集約された

規制改革実施計画(令和2年7月閣議決定)とは何だ!?

この計画書の冒頭には、「我が国が豊かで活力ある国で在り続けるために、(中略)時代に適合した規制の在り方を模索し、実現していかなければならない」と書かれている。近代民主主義国家では、国民の安全と経済の発展に資するために、国の行政機関が「自由」に対する一定の制限を設け、国家の治安と社会秩序を維持しようとする。その結果、さまざまなルールを制定して画一的運用を図り、強制力を要するものには法令を当てはめていく。

並行して成長を続ける人間社会においては、新しい価値観や技術革新による国民生活の変化が常に渦巻いているから、その時々には有益であった規制やルールも時の経過とともに陳腐化し、放置されれば社会全体に有害なデブリと化して成長を阻害する要因となり得る。

つまり、政府は経済のグローバル化、経済・社会のデジタル化がもたらすイノベーションに即応し、この国が世界から取り残されないようするために、遅ればせながら現行の規制・制度を見直し、成長を加速させ得る規制・制度に変革して行こうというのだ。その指針となるべき計画案を作成するため、令和元年10月に内閣総理大臣が常設の諮問機関として設置したのが「規制改革推進会議」で、そこから答申されたものがこの「規制改革実施計画」で、各産業分野別に重点実施項目を列挙し、行政主導の下で速やか且つ着実に実施していくとしている。

ちょっとお堅い説明になってしまったが、要は各産業分野でのDX推進とイノベーション促す目的で、所管行政庁が旗を振り、業界のケツをひっぱたいて、「不要な規制・制度を見直してやるからデジタル時代を乗り切ろう!!」と煽っているのだ。

不動産業界に対する3つの重点項目

その1~不動産取引の相場情報を整備する~

平成19年からレインズの取引成約情報を利用して、消費者向けに情報提供を行ってきたシステム(レインズ マーケット インフォメーション:略称RMI)というものがある。簡単に言えば、一定エリアの取引価格データから、近隣相場が分かるというサービスだ。不動産価格というのは一般に「一物三価」と言われ、公示価、路線価、固定資産税評価が国の制度として公開されている。しかし、売買取引において契約に至る価格には、物件の個別属性と周辺環境、時の経済情勢に加えて、当事者の個別事情が影響大だから、成約価格というのは国も重要視している。

そのシステムを見直し、社会的ニーズに呼応した仕組みに作り替えろ!というものだ。しかし、この取引事例というのは実際に契約した特定の不動産とその金額だから、個人情報として取り扱われている。契約当事者も、見ず知らずの他人に財布の中身をさらけ出すようなことは勘弁してくれ!と、情報開示には消極的な割合は過半数を超えているのが実情だ(国交省・土地問題に関する国民の意識調査R2版)。

その2~レインズの登録情報を充実させる~

レインズシステムは、今や我が国最大規模の不動産情報データベースに育っている。本邦一円、今売り出し中の在庫不動産や、成約事例といった過去の取引情報、賃貸物件なども網羅する登録検索システムだが、このレインズは一般公開されておらず、不動産屋だけが覗くことを許された、正に都市伝説的なデータベースなのである。従って、“プロが使う”というのが目的のため、消費者の皆さんが日頃物件探しに活用している物件情報ポータルサイト(SUUMO、HOME’S、athomeなど)に掲載されている物件情報項目よりも、格段に少ない項目で登録が可能(物件種別によって若干異なるが、平均7~8項目が必須)となっている。業者間では長年に亘り、それはそれ、必要な情報は改めて確認するという、所謂“二度手間”に慣れているから、仕事の上ではそれほど問題視していないのだが、御上はこれを不服だと言う。

つまり、少ない項目の歯抜け情報じゃあ、消費者に紹介するためには再調査の手間が掛かるでしょ? それって効率悪いでしょ!? 必須項目増やして利便性が落ちることにはならないでしょう~、と。一理有る。米国での類似システム(MLS≒マルチ リスティング サービス)なんかは日本と逆で、消費者には少ない項目を開示し、詳細はエージェントに確認させる流れを作っている(現在ではインターネットの普及でそれも崩れてきているらしいが)。プロこそ詳細情報を把握していて当たり前であり、合理主義的なビジネス優先の考え方だ。しかし、日本では既に民間ポータルサイトが充足しているから、今更MLS流のビジネスシーンに移行するのは“時すでに遅し”の感が充満している。

その3~不動産にIDを付ける~

不動産取引の経験がおありなら、契約前に重要事項の説明と、契約書類の説明を受けたことがあるだろう。調査内容は膨大で、物件の属性から法令制限、法務局や市役所情報、近隣周辺情報や取引に係る約束事、民法だ、宅建業法だ、とまあ、延々と専門用語の洪水で、確かに一生に何度も無い買い物だからと我慢々。仲介手数料ってどうしてこんなに高いの?って不満をお持ちのお客さんでも、この重要事項説明をまともに受けると、少しは不動産屋の苦労も分かっていただけるかもしれない。

これら調査の手間を省いて生産性を上げませんか? 不動産にID付けて、それに多くの情報を紐づければ、IDで一挙解決!なんて夢のような話を持ち掛けてくるのは所管の国交省。ちょっと考えてみても、その紐づける情報って、そうは簡単に整備できない。いろんな役所が絡み合って、それぞれの地域でデータの種類もフォーマットもバラバラ、地方庁によっては出す、出さないというところも統制が取れないかもしれない。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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