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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

居住支援のこれから 〜本格化する高齢者と外国人入居にまつわるエトセトラ〜

南村 忠敬南村 忠敬

2022/07/15

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イメージ/©︎paylessimages・123RF

衝撃的だった。

治安の良い日本でも、殺人事件は日常茶飯事的に報道を見聞きする昨今、それとは異なる感覚が、遠い昔に感じた何とも言えない気持ち悪さに似て、血の気が引く思いだった。

去る7月8日午前11時30分、近鉄「大和西大寺」駅前。地元候補者の応援演説のため壇上に登った安倍晋三元首相(67)に、背後から2度に渡って放たれた銃弾が氏の首と左の肩から胸の辺りを打ち抜き、その場に崩れ落ちた。 

心肺停止の状態だった。

奈良県立医科大学付属病院にドクターヘリで救急搬送された安倍晋三元首相だったが、同日午後5時3分、同医大の医師によって死亡が確認された。

この驚くべき事件に日本中が震撼したのは当然、拙者自身もその一人だが、繰り返される銃撃現場の映像が拙者に呼び起させた記憶は、1985(昭和60)年6月18日、被害総額2000億円と言われた金地金詐欺商法で渦中の豊田商事会長・永野一男氏(当時32歳)が、大阪市内の自宅マンション前に張り付いていた多くの報道陣の目の前で惨殺された、あの事件だった。 

当時、ブラウン管の向こうで繰り広げられた実況中継さながらの惨劇に、「現実?ドラマ?」と我が目を疑いながらも吐き気を覚えた。その気持ち悪さとこの度の悲劇は共通するものがあった。 

人の一生の儚さ、運命と言ってしまえばそれだけだが、その残酷さを身近に感じる瞬間が時折もたらされるのは、ずいぶん歳を重ねたからだろうか。

2012年9月26日。この日も安倍晋三氏にとって運命の一日だった。第一次安倍内閣総辞職後、総理総裁の座から退いて5年の歳月が流れていた。石破茂氏を決選投票で破り、自民党史上初めて一度辞任した総裁の再選を果たしたのだ。

その夜、拙者はある政界関係者と地元神戸の中華料理店で会食を共にしていた。途中、その人物が誰かと携帯電話で親しげに話し始めた。そしておもむろに拙者の名前を電話口に告げて携帯電話を私に差し出した。

『もしもし、安倍晋三です、いつもお世話になっております…』『あ、こちらこそ。この度はおめでとうございます。これを機にもう一度首相として、頑張ってください!』というような内容だったと記憶している。

その後、当時の野田佳彦首相(民主党)との党首討論で、会期中に議員定数削減法案への自民党の協力を条件に、11月16日に衆議院解散を約束せしめ、12月16日の第46回衆議院議員総選挙に自民党は大勝。同月26日の国会で第96代内閣総理大臣に選出され、後の「安倍一強」と揶揄される長期政権への幕明けだった。

「袖振り合うも多生の縁」と、薄く細い付き合いも拙者の大切な思い出となってしまった。安倍晋三氏のご冥福を心から祈る。

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誰だって歳をとり、終焉を迎える

建物の賃貸管理物件では、何十年にも渡って入居者が入れ替わらない物件は希だ。しかし、借地を管理していると、借地人はその上に自分の家を持っていることが多いので、借地期間満了、更新契約を繰り返し、代替わりも珍しいことではない。従って、初回契約書には昭和や大正の年号が刻まれ、特に昭和20年代以降40年代に掛けてが多くなっているのは、戦後の住宅難やその後の高度成長期に、「土地を借りて家を建てる」選択肢もメジャーであったからだと推測する。

拙者の営む零細不動産会社にも借地の管理物件が複数存在し、借地人の高齢化が顕著だ。先代が他界され、相続人がそのまま住み続ける物件もあり、平均借地年数は50年を優に超えている(そもそも弊社では、借地の管理も別会社から引き継いでいるものが多い)。

借地の管理業務は、地代の徴収及び滞納地代の督促、借地権の売買、借地契約(土地賃貸借契約)の手続き、代理契約業務などや、ときには借地上建物の解体工事も請け負うが、建物賃貸借とは異なり、地代も半年払いか1年払いが殆どであるから、借地人に動きが無ければそうそう手間が掛かることはない。

半年ごとに借地人の住居に地代の請求書を届けて回る。大体5月中旬から下旬に掛けて一軒々ポスティングを続けているのは、土地の使用方法に変更は無いか、実際に借地人が住んでいるか、などの契約上の諸事確認を行う必要からだが、近年ではそれに加えて借地人の安否確認も重要な業務となった。それは取りも直さず、借地人の高齢化、単身化が進んでいるからだ。

5月下旬のこと。借地人の一人で、拙者が『ナカガワのじいちゃん』と呼んでいる御年95歳(おそらく)のお宅に請求書を持参したのだが、ドアの鍵も窓も施錠され、カーテンも引かれたまま、郵便受けには5日前の夕刊紙から今朝の朝刊までがギュウギュウに突っ込まれていた。「まずいな……」。

店に戻り、区役所の福祉課に連絡をと思ったが、あいにく日曜日でつながらないので、ダメもとで地域の“安心すこやかセンター”(※1)に電話を掛けると、転送された先はエリア内に在る特養(特別養護老人ホーム)の事務所につながった。対応いただいた方に事情を話すと、「お調べします」と折り返しお電話をいただいた。

結局、ナカガワのじいちゃんは、あんしんすこやかセンターの見守り対象者であるらしく、週に2回の訪問時に自宅で倒れているところを発見され、救急搬送されていたことが分かった。借地を管理しているからといって、親族でもないので入院先などは教えられないが、ご本人に何かあれば(何かって、亡くなったらってことか?)知らせますとのこと。コロナの状況もあって、入院先を知ったところで見舞にも行けないし、定期的に郵便受けの整理をして帰りを待つしかない。「今年の地代は貰えないかもな……」。

※1:あんしんすこやかセンターとは、「地域包括支援センター(介護保険法第115条の46により、市町村に置くことが出来る包括的支援事業を行う施設)」の神戸市における愛称のことで、高齢者の介護や見守りなどに関する行政の相談窓口。

一度に3社から入居申し込みが入った人気物件

弊社が所有するアパートに最近加わったのは、借地権付きの二世帯住宅をリノベーションした物件。1階と2階にそれぞれ2DKの間取りの少人数世帯向けに設えた。阪急電車の最寄り駅まで徒歩6分とまあまあの立地だったからか、入居者募集を掛けたところ、一週間で3件の申し込みをほぼ同時に受け付けたのだが、その内容にある共通点があった。3件とも外国人の家族が申込者だった。国籍はそれぞれネパール、ミャンマー、ベトナム。それぞれ日本語は何とか通じる程度の語学力は備わっており、在留資格にも違法性は無い。外国人入居の場合、家賃保証会社の加入条件に“母国の連絡先(身元引受先)”などが求められるケースも多いが、全て整っている皆さんだったので、選考には苦労した。入居して1年が経つが、ノンクレーム、ノントラブルで、ご近所の方からの苦情なども一切聞いていない。

政府はインバウンドを推奨しているが、実社会では少子高齢化に苦しむ日本の経済再生には外国人労働者に期待するという企業は増えている。日本にやってくる外国人に対して先ず必要となるのが住居であり、日本で生活する基盤となるわけだから、我々不動産業界の使命として、外国人に住居を斡旋することは至極当然の業務である。

島国特有の文化や民族性、地理的条件などが日本人の閉鎖性や排他性を育み、形成してきたとする“一般論”は、近代日本(明治維新後)の義務教育課程でも蔓延し、富国強兵、脱亜入欧、そして戦後の高度経済成長期における規格大量生産に適した人材養成のために、個人の独創性と個性そのものを封殺した当時の国家戦略によって造り出されたもの、浸透したものに過ぎない。『外国人』と聞くだけで異質と捉え、文化や生活習慣の違いが『日本人』と相いれない“見えない壁”と立ち塞がる感覚が特有のアイデンティティーだというなら、その“錯覚”こそが日本人のアイデンティティーだと言わざるを得ない。


イメージ/©︎choreograph・123RF

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住宅確保要配慮者と居住支援

「もともと日本人は単一民族でもなく、同質でもない。なのに、自分たちは同質だという幻想に漬かっている——そうした意識の下での「多文化共生」観は、同質と思う人たちが、異質と思う人たちに「してあげる」という、恩着せがましいものにもなりかねない。」(岡本雅享:島国観再考-内なる多文化社会論構築のために 福岡県立大学人間社会学部紀要2010第18巻第2号80項)

この指摘は、対外国人に限った話ではなく、現代日本の社会全体に蔓延っている排他的思考への警鐘である。

不動産業界でも住宅確保要配慮者(※2)への居住支援を“ボランティア”だと言いのけて憚らない事業者もいる。それはどう考えても間違いで、たとえ低額な賃料の物件であっても、仲介手数料などの報酬を受け取る以上、仕事であってボランティアではない。

一方、行政側はこの住宅確保要配慮者に対する入居を拒まない物件の供給と斡旋、物件所有者に対する啓蒙と理解、協力を得るよう業界側に要請してくるわけで、そういう通知を受け取った事業者としては、「大して金にならないのに、手間ばっかり掛かるし……」となってしまい、実際はフィーが発生しているにも拘らず“ボランティア”感覚で仕事をする羽目になる。

※2:法律では、低所得者、災害被災者、高齢者、障害者、子育て世帯をいい、国土交通省令では、日本国籍のない人・児童虐待や配偶者虐待を受けている人・生活困窮者自立支援法の支援を受けている人・犯罪被害者・更生保護法に規定する保護観察対象者、売春防止法に規定する保護観察に付されている人・更生保護法に規定する更生緊急保護を受けている人・北朝鮮拉致被害者・中国残留邦人で永住帰国下人とその配偶者・ハンセン病療養所入所者が含まれ、その他各都道府県・市町村の賃貸住宅供給促進計画によって定められた者も加えられる(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律及び同施行規則)。


イメージ/©︎maru123rf・123RF

“郷に入っては郷に従え”とは、中国の歴史書「五灯会元」に書かれた“入郷而従郷、入俗而随俗”句の和訳で、古くは鎌倉時代から主に子ども向けの教科書として書き起こされ、明治中期まで使用された「童子教」に収められた教訓だ。

最近では、異質とするものを受け入れる際に、受け入れ側のルールに従えという使い方が主流のようだが、そもそもこの句の主体は自分自身であり、古くから中国でも日本でも、「他所に行ったらそこの風俗や慣習には従うことが生きていくうえでは必要だよ」と教えているのだ。つまり、日本国内においても所変われば品変わるのごとく、古人は他人と自分との同質性、文化の一元性などは感じておらず、多種多様な文化の共存は当然として生きていたことが分かる。現代人よりも遥かに行動範囲が狭く、閉鎖的な社会に生きていた古人の方が、グローバル社会を生きているはずの我々よりも、である。 

居住支援の本質は、日本人の誰もが多文化に寛容で、且つ多様性に富んだ感性を備えたとき、要配慮や要考慮という言葉そのものが不要になることではないだろうか。 

〜追記〜
「ナカガワのじいちゃん」ですが、先日退院して無事ご自宅に戻られました。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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