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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

家賃滞納トラブルは日常茶飯事 それでも日本の不動産屋さんが優しくなったワケ

南村 忠敬南村 忠敬

2021/11/16

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日本の不動産屋さんは優しい!? イメージ/©︎maposan・123RF

すっかり日が落ちるのが早くなった。

立冬も過ぎて、道行くレデイは冬支度も早々に、緊急事態宣言解除からひと月ちょっと、夜の街にも笑い声が戻ってきたようだ。

私の住まう神戸では、しばらく天気のよい日が続いていたが、このところ急に雲行きが怪しくなったり、通り雨がザーっと来たり、木枯らしといっても相当な風速で、据え置き型の看板や工事現場のパイロン(三角コーン)が飛んでしまうほど。

「大気の状態が不安定で——」とか、「気圧の谷が通過し——」など、耳にするだけで空模様が不安になるような気象用語。不安定の反対は「安定」。大気が安定するのはどんな時?と考えることが大切。気になるので調べてみた。

おそらく中学の理科レベルであろうが、二つの異なった流体(気体、液体の総称)が存在するビーカーの中で対流が起こるのは、質量や温度の違いがあるから。

水と湯を入れると、湯は上に、水は下に溜まる。すると対流が収まるのでビーカーの中は安定状態。空気も同じ。地表が暖かく、上空が寒冷で、その温度差が大きいほど対流は急激となり、地球上で空気の対流が起きると積乱雲が発達して雨が降る。だから、今は晴れていても、上空に寒気が流れ込むと大気が不安定になりますよ、雨が降りますよ、風が強くなりますよ、ということだそうだ。納得。

ここで天気予報を確認するとき大切なのは、大気の状態が不安定になる原因を聞き逃さないということだ。「○○で大気の状態が不安定に——」という部分、つまり、「気温の上昇で」とか、「上空に第一級の寒気が流れ込み」や「低気圧の接近で、湿った空気が入り込み」などなど。原因によってどの程度不安定になり、どの程度天気が崩れるのかも概ね判断できるというものだ。

不動産賃貸借契約の状態が「不安定」となる原因は?


イメージ/©︎gmast3r・123RF

賃貸借契約は、継続的取引契約と呼ばれ、例えば持続的な商品の供給に関する契約等、一定期間、当事者の一方が相手方に対して商品または役務の提供を継続する義務を負うことを内容とするものと同様の類型に当たる。

貸主は不動産を提供し、借主は毎月期日までに決まった賃料を支払う。不動産に目立った不具合も無く、賃料も遅滞なく支払われていれば、この継続的取引は「安定」しているのだが、ひとたび不具合が発見され、家主が修繕義務を履行しないとか、賃料が入金されず、督促してもなかなか履行されないなどの状況に陥ると、この取引は「不安定」な状況に変わる。

そして、これが一旦は改善しても、またぞろと度重なってくると、「非常に不安定な状態」となり、信頼関係が破綻するのだ。

保証人は今は昔? 賃貸保証会社の台頭

「保証人なしでは貸せませんな~」「身内にしてくださいね。友人とかは駄目ですよ!!」なんてやり取りも今は昔。

最近では賃貸保証会社加入(保証委託契約の締結)が賃貸物件を借りる場合の家主側の必須条件となっている(のが殆どだ)。この賃貸保証会社なるものが世に登場してきたころ、不動産屋の、少なくとも見識のある不動産屋であれば、「?」と思っていたに違いない。家賃保証システムは理解できるが、そもそも家賃保証の利益を受けるのは家主であり、不測の事態に備える保険として家主が加入するのが筋ではないか?という疑問があったからだ。

法律の専門家から言わせれば、賃料支払い債務を保証する契約で何ら問題はないのだろうが、これには、当初、今のような《保証人無しコース》の商品がエントリーされておらず、保証会社が賃借人と保証委託契約を結ぶ際にも、別途連帯保証人を要求していたからだった(私の記憶が確かならば……)。

次ページ ▶︎ | そもそも連帯保証人とは? 

債務保証の必要性は、連帯保証人を用意できないような不安定な借主にこそ必要なのであって、そうでなくても身内の保証人を立てることは大きな負担であるのに、その上にまだ保証会社加入を要求するなんて、賃借人に過度な負担を強いることになり、賃借人保護を謳う借地借家法の趣旨にも反するやん!という理由で、連帯保証人をきちんと用意している借主には、保証会社加入を強制するなどはしなかった。

それが今では、一定の保証料を多く払えば連帯保証人が付けられなくても保証が受けられるようになり、私の「?」も払拭されたので、拙者の店でも他店同様、保証会社は必須条件とさせていただいている。

「保証人なしでは貸せません」といったやり取りも今は昔 イメージ/©︎bearbakerstreet・123RF

そもそも連帯保証人とは

世間では、「保証人」と一括りにするけれど、法律的には単なる「保証人」と、「連帯保証人」との区別は明確で、保証人として負うべき責任と義務の範囲に大きな違いがある。知ってるようで正しく理解している人が少ないから、債権者と保証人との間で日常的にトラブルが起こっている。それをどうにかしないと世の中の金融システムに支障を来たすとあって、昨今ご存じの民法大改正が行われたのも記憶に新しい。

【連帯】の文字が付くのと付かないのとで異なる最も大きな違いは、債権者に対する“ものの言い方”だ。法律用語では、「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」と「分別の利益」が認められていない、と説明する。随想を執筆していると、文面が解説書調になることは避けなければならないので、ここは“関西弁”で。

保証人に債権者から連絡が来るのは、債務者が債務の履行を怠ったときだから、当然、“請求”が目的だ。

その時、普通ならこう言いたいだろう。

「なんやねん、いきなり払えって。本人に言えや!」と、催告の抗弁で対抗。

「奴はけっこう金貯めてるで! 知ってるか? 調べてこいや!」、これが検索の抗弁。

「保証人は俺だけやなかったよな? 確かもう一人、あ、嫁さんがおったな。ほんならワシは半分だけでええやろ。残りは嫁さんから貰えよ!」は、債務分別の利益を主張することだが、いずれも連帯保証人にはこれらの抗弁が使えない。つまり、連帯保証人は、債務者本人と同様の債務と責任を負っているということや。

他方、保証会社の保証委託契約約款を読めば、その会社がどの範囲まで賃借人の債務を保証してくれるのかが書いてある。保険にしても、保証にしても、約款などを熟読する契約者は少ないと思う。これがダメなのだ。保証会社によっては賃料債務だけを保証するところから、悪質滞納者の退去や、残存物処理費用までを見てくれるところまで、その差はけっこう大きいことをご存じか? 

保証料が安い≒保証範囲が狭いというのは当然で、賃貸借契約から発生する様々なリスクを想定するならば、保証会社だけでは万全ではないのだ。そこで前述の、「保証会社加入+連帯保証人」の必要性が浮上する。なんせ、殆どの賃貸借契約書の連帯保証人特約にはこう書いてある。

「連帯保証人は、借主と連帯して、本契約から生じる借主の債務を保証するものとします」

これは何を意味しているのか。そう、この包括的債務保証の特約によって、保証会社が責任を負う範囲を大幅に超える賃借人の不始末の責任を取らされるということだ。例えば、部屋の原状回復義務に基づく改装工事費や、賃借人の自殺などを原因とする損害賠償なども連帯保証人は責任を負わなければならない。

次ページ ▶︎ | 賃料督促の現場ではどのようなことが起きているのか? 

賃料督促の現場では

人気のVシネマ『ミナミの帝王』では、闇金を営む萬田銀次郎が、借金を踏み倒して逃げた債務者の連帯保証人になっていた町工場の社長を突然訪ね、「ミナミで金貸しやっとる萬田っちゅうもんですわ。元金利息併せて300万、今すぐ耳揃えて払うてもらえまっか!!」と言い放つ。「えええ~!! そんないきなり、殺生やあ」。ま、現実なら闇金の連帯保証人に返済義務はないだろうけどね。

しかし、そんなやり取りは、賃貸物件の家賃滞納に対する連帯保証人への督促現場では、滅多にお目に掛からない。

我々の世界では、家賃滞納トラブルなんて日常茶飯事なのだが、前述した保証会社のお陰もあって、最近では不動産屋や管理会社は事故報告の一報を入れるだけ。あとは保証委託契約に基づいて家主の口座に賃料が振り込まれる。

契約の内容にもよるが、督促や回収業務は保証会社が全てやってくれるし、一定期間回収不能が続けば、契約解除の処理までやってくれるのだから、以前のように連帯保証人宅に電話を掛け、賃料の督促や内容証明郵便を出す手間も要らない。


家賃滞納におけるフローは様変わり イメージ/©︎prpicturesproduction・123RF

しかし、何も全ての賃貸契約に保証会社を用意できるわけではない。保証会社の審査に通らなかったり、ご本人の資力と連帯保証人のスペックが高い場合など、敢えて保証会社を付けないことだってある。

そんな賃借人に家賃滞納が発生した場合、法的手続きに即移行するかと言えば、多くの不動産屋はそうでもないらしい(うちもそうだ)。期日を過ぎても入金が無い入居者に対して、優しくお電話、訪問。督促というよりお願いベースで下手に立って、一応「いつ々までに払います!」の言葉を信じてお待ちする。

大体、それですんなりいくケースは少なく、再度の督促にお伺い。何をするにもお金は掛かるのに、督促手数料も遅延損害金もいただかない。それでも払ってくれないとなって、ようやく連帯保証人への連絡を試みるのだ。

そんな悠長なことはしない、という同業者も勿論いるのだろうが、闇金の取り立て屋を経験したことなどないから、話もせずに、期日経過・即日連帯保証人に法的請求!という無機質な機械的処理には、どうにも気が引けるのである。

そんなこんなで今日もまた、連帯保証人さんに電話を掛けましたところ、「○○さんの滞納家賃、お支払いお願い——(ツーツーツー電話切られた)」。

あー、仕方ないな、それじゃあ弁護士に頼むか……。なんて優しいんだろう、俺って。

※注 2020年4月1日施行の改正民法により、個人根保証人の保証限度額の明示が保証契約に必須となり、『債務の元本』『債務に関する利息』『違約金』『損害賠償』『その他に発生する債務』の責任範囲の上限金額を明記しなければ、保証契約そのものが無効とされる(民法第465条の2)。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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